おはようございます。「朝渋」メディア担当の井手 (@kei4ide ) です。

現在、様々なところで『ブランドづくりが大切』といった言葉を耳にするようになりました。

書店に行くと、「ブランディングの教科書」、「ブランドを強くする◎◎の法則」といったタイトルがビジネスコーナーに陳列され、「セルフブランディングのススメ」だとか「自分をブランドにする生き方」みたいなタイトルの自己啓発本も、よく見かけますよね。

でも、「ブランドって何?」と尋ねられると、明確に答えるのは、難しかったりしませんか?

『ブランディングの話って、実は誤解が沢山あります。ブランドの本というと難解なものが多くて、初めてブランディングに関わる方にむけた “全体から俯瞰した書籍” が少ないことが、その要因の一つだと思います。』

そして、多くの方に「ブランドとは何か? ブランディングをする際に気を配るべき点は何か?」を解りやすく伝えるために書いたのが、新著『デジタル時代の基礎知識「ブランディング」 ~顧客体験で差がつく時代の新しいルール~』だと、今回のゲストである山口 義宏さん (以下、山口さん) は言います。

朝渋では、4月16日に、100社を超える上場企業クライアントに対し、ブランドマーケティング戦略策定、商品・デザイン・広告施策の実行、グローバル市場戦略などの支援を提供しているインサイトフォース株式会社・代表の山口さんをお招きし、『著者と語る朝渋読書会』を開催しました。今回は、そのレポートをお届けします!

山口 義宏さんのご紹介

(photo by 矢野拓実)

山口 義宏さん

インサイトフォース株式会社 代表取締役 戦略コンサルタント

東京都生まれ。東証一部上場メーカー子会社で戦略コンサルティング事業の事業部長、東証一部上場コンサルティング会社でブランドコンサルティングのデリバリー統括、デジタル・マーケティング・エージェンシーで新規事業開発マネジャーを経て、2010年に企業のブランド・マーケティング領域特化の戦略コンサルティングファームのインサイトフォースを設立。BtoC、BtoB問わず大手企業における企業/事業/商品・サービスレベルのブランド・マーケティング戦略の策定、CI、マーケティング4P施策の実行支援、マーケティング組織開発及びマーケティングスタッフの育成を主業務とし、これまで100社を超える戦略コンサルティングに従事。

魅力的で一貫性のある体験を提供できるか

ー 始めに、山口さんより、新刊にまつわる講演をいただきました。その内容のダイジェストをお届けします!

山口さん:まず一番最初に覚えてほしいのは、ブランドとは何かということです。

文字でも、音声でも、色でも、形でも良いので、そのブランドを識別できる記号的要素(識別記号)と、みなさんが感じられて、記憶に残って、知覚されているもの(知覚価値)の2つが結びついているものが、ブランドなんです。

例えば、コカコーラの赤いロゴを見るだけで、「炭酸飲料を売る会社」ということを考えたり、「さわやか」とか「ハッピーな気分転換」みたいなことを思ったりしますよね。白い犬がCMにでてくれば、「あっ、これはソフトバンクのCMなんだなぁ」と、ほとんどの方が想起するはずです。

強いブランドというのは、識別記号が多くの人に知られ、その識別記号を見ると、人々に豊かな知覚価値を想起させることのできるブランドのことをさします。

では、どうしたら、強いブランドができるかというと、そのブランドに一貫性があるかにかかっています。バラバラな印象を与えることは、ブランドにとってマイナスです。

例えば、商品を買ったり、店舗に行ったり、接客に触れたり、Webサイトを見たりする度に、毎回同じことを伝えてくるお店と、接点が変わるたびに言うことがコロコロと変わるお店であれば、前者のほうが圧倒的に記憶に残りますよね。

つまり、一貫性のあるトーン&マナーだったり、一貫性のあるビジュアルであったり、一貫性をもつことが非常に重要になるということです。魅力的で一貫性のある体験がブランドを創っていくんですね。

しかし、難しいのが時系列の一貫性です。なぜなら、時代や社会の変化にあわせて、顧客のニーズは変化していくからです。ブランドとして一貫性を持ちながらも、マーケットのニーズ変化に対応するというのは、「言うはやすく行うは難し」の典型で、ブランドの運用の腕が試されます。

顧客にとって、商品の価値は”事実”ではなく”知覚認識”

山口さん:強いブランドを持つことのメリットして、大きく3つの効果が期待できます。

1つ目は「競合に埋もれずに選ばれる」ということです。これはコンビニでの買い物を思い出してもらうと解りやすいのですが、1つの棚に商品が数多く並んでいる中で、みなさん、大体5~6秒程度で商品を選択しますよね。これは、無意識に頭の中で商品の候補が絞られているからです。要は、知らない商品は探さないから検討候補にすらなりにくいですし、商品を見たときに豊かな知覚価値が想起されると候補の中から選ばれやすくなるんですね。逆に、知覚価値が想起されない商品は埋もれてしまいます。

2つ目は、「有利な取引条件」。例えば、コンビニやスーパーにはプライベートブランド(PB)の商品が沢山並んでいます。しかし、コカ・コーラのほうがPBのコーラより価格が高くても売れます。つまり、強いブランドはより有利な条件で取引できる。要は高く売れるから利益も確保しやすいということです。

3つ目は、「取引のリピート率向上」ということで、みなさん、良い体験をしたけれど、リピートしないものって、山のようにあると思うんですよね。その原因の一つは、ブランドの刷り込み不足です。例えば、レストランであれば、素材の産地や、シェフの経歴など、消費者の頭の中にブランドが刷り込まれる体験が伴わないと、リピートはなかなか発生しません。ポイントは、他の人に何が素晴らしいのかを言葉で語られるようにしてあげることです。そうすることで、リピートはもちろん、クチコミも発生し、市場の規模やシェアの拡大がしやすくなります。

次に、顧客にとっての商品・サービスの価値は”事実”ではなく”知覚認識”という話で、これは企業が誤解しやすいところです。

どういうことかというと、企業は、良いスペックや品質など、商品やサービスの優れた”事実”で、顧客は選択すると思いがちです。しかし、一部のリテラシーが高い人を除いて、大多数の顧客は、細かいスペックを横比較して選ぶなんてことはしないので、いかに顧客の頭の中に知覚認識をつくっていくかが大切になってくるわけです。

そして、知覚認識の競争力を高める上で重要なのが、”顧客インサイト”です。顧客インサイトとは、「そこを突かれると感情が揺れ動き、購買喚起につながるような生々しい本音」のことをさします。

感情の喚起につながるアプローチは、大きく分ければ「チャンス喚起」「リスク喚起」の2つしかありません。「この商品・サービスで、よりよいことが起きるかも!?」とチャンスを期待する気持ちを喚起するアプローチと、「この商品・サービスを使わずに、現状を放置するとマズイことが起こるかも…」というリスクを不安に思う気持ちを喚起するアプローチです。

リスク喚起のほうが、一般的に購買につながりやすいと言われていますが、やりすぎると顧客を脅しているように感じられ、社会から批判されるリスクもあります。そのため、日本の大手企業だと保守的な企業体質として避けがちな傾向があり、外資系の企業のほうが、リスク喚起のアプローチを上手く使いこなしている印象がありますね。

デジタル時代における2つの変化

山口さん:さて、ここからはデジタル時代における変化について話をしますが、大きく2つの変化があります。

1つ目は、モノや技術のコモディティ化が進んだという点です。昔は、ひとたび先行技術の優位性を築くと、数年は優位性を保つことができましたが、今は瞬時に他社にキャッチアップされるようになりました。そのため、モノ以外も含めた顧客体験全体を良くすることが求められるようになったんですね。モノだけでは競争優位が保ちにくいことが増えました。

例えば、メーカーであれば、これまでモノを売る瞬間以外の接点を維持することがコスト的に難しいのが実情でしたが、スマホとネットの浸透により、製品を売る前でも、製品を売った後でも、低コストでお客さんとつながることができるようになりました。

消費者にとって製品の価値とは、顧客体験の累積で表されます。モノ単体の価値だけでなく、連携サービスの価値や、その製品を通じた人との会話や情報の価値など、顧客体験全体をどうデザインしていくのかが重要になります。iPhoneなどはアプリという連携サービスによって価値を高めている典型例ですね。

2つ目は、生活者が情報発信できるようになったことで、これまではマスメディアの報道が知覚価値をつくる主要なソースだったのが、CtoCサイトやSNS上のクチコミの影響が大きくなりました。そのため、生活者を支援するような価値観をもち、ブランド主語から生活者主語の情報を発信していくことが求められます。

例えば、トヨタのプリウスであれば、「トヨタのハイブリッドシステムはすごいんです」、「こんなに燃費がいいんですよ」という企業主語のメッセージだけでなく、例えば、「燃費の良い運転の仕方」とか、「エコに暮らすためのコツ」など、生活者目線に立って有用な情報を提供することが大切ということです。企業主語のメッセージを頻度高く発信されるとうっとうしいですが、生活者を支援する役に立つメッセージなら頻度高くても受容されやすくなります。

ヘアケアブランドであれば「異性を惹きつけるための支援者」。ベビーケアであれば「子育ての支援者」など、ブランドと消費者が共有できる関心事を探し、製品を売りつける存在ではなく、支援者としての立ち位置に転換することが重要です。

よくあるブランディングの落とし穴とは?

山口さん:最後に、ブランディングを推進する際の、よくある落とし穴について、2点、お話します。

企業の規模が大きくなっていくと、事業のバリューチェーン上、初めに商品企画部が新しい商品やサービスのコンセプトやブランドの戦略を決めることが多くなります。

そして、それを広告宣伝部に持っていくと、「この切り口だと、CMにしてもインパクトがないんだよなぁ…」とか、販売促進部から「これだと店頭POPで目立たないから、うちでは変えるよ」とか、営業部からは「そんなカテゴリーの棚はないから、バイヤーに刺さらないんだよなぁ」となり、結果、施策がバラバラになってしまうのは、大きな会社あるあるなんですよね。これが、よくある落とし穴の1つです。

では、これをどうやって回避するかというと、ブランド戦略策定時に、あらかじめ各部門を巻き込んで検討することが大切だと思っています。

合意形成には必ずコストがかかります。選択肢は「合意形成を先払いするか、後払いするか」の2択です。商品企画部でサクッと戦略を決めるほうがスピードは速いですが、その後の社内浸透に思った以上に時間がかかり後払いコストは膨らむ傾向があるので、「急がば回れ」ではないですが、先に各部門を巻き込んだほうが良いと思っています。

私たちが大手企業をご支援する際には、ほとんどこのやり方で進めます。もし、鶴の一声で組織がまとまるオーナー経営者の企業であれば、経営者と一緒に決めてから現場に落とし込むというやり方でも機能します。

次に、よくある落とし穴の2つめは、『販促活動=絶対悪』という思い込みです。

「アップルは、常に一歩引いた媚びない、売り込まない姿勢だからブランドになった。売り込みはダメ!」というような、販促活動を行うことがブランドをつくるうえで足かせになるといった思い込みですね。

でも、現実的に考えると、今日の売上をつくる販促活動も重要です。ブランディングは、長期目線で生活者に知覚を蓄積して“指名で選ばれる”ための施策であり、販促は短期目線で “今、買ってもらう”ための施策です。

生活者から選ばれるという目的は一緒でも、 コミュニケーションは全く異なることに注意し、並列して使い分けていくことが大切になります。

ブランドの局面によって把握すべき対象は変わる

ー 25分間という短い時間の中で、ブランディングに関する基礎的な知識から、推進する際のよくある落とし穴など、濃厚な講演をいただいた山口さん。この後は、私、井手とブランドに関するトークセッションをさせていただきました。その一部を届けします!

井手:今回の書籍を読んで初めて知ったのですが、山口さんは、“Bean to Bar Chocolate”で有名なMinimalの社外取締役されていたんですね! 実は、僕はMinimalに今すごくハマっていまして、商品のデザインから、店頭、Webサイトに及ぶまで、自分たちのこだわりを丁寧に伝えていく顧客体験の設計がスゴいなぁ…と思っていたんです。

そこで、山口さんが、Minimalのブランディングを支援していくなかで、特に気を配った点があれば、教えてもらえませんか?

山口さん:そうですねぇ。そもそも経営陣に強いコンセプトや提供したいバリューがあったので、その良さを殺さないで、ビジネスとしてどう伸ばすか?という点ですかね。

例えば、コアバリューを失わないために、Minimalを買い続けてくれている方や、過去に買っていたけど、最近買っていない方に対して、Minimalのどういうところを支持していただいていたのかなどをインタビューして、ブランドとして変えちゃいけない部分はどこなのかを把握するようにしてますね。ブランドとしての意志は大切にしつつ、それをもとに施策を調整したりもしています。

井手:なるほど。ちなみに、山口さんがブランディング支援を行う際は、そのブランドの既存のお客様が、どこを支持しているのかを調査することから始めることが多いですか?

山口さん:調査からブランディング支援を始めることは半分くらいですかね。また、既存のお客様を調査するかどうかは、そのブランドの局面によって変わると思っています。例えば、縮小しているブランドで、リブランディングが求められる際には、既存のお客様というのはニッチなお客様である可能性が高いので、既存のお客様よりか、獲り逃したり、逃げてしまったお客様の話を聞くことの方が重要だと思っています。拡大しているブランドなら、既存顧客の声の有用性は高まりますが。

また、ブランドの規模によっても変わります。マーケットシェアが何十%もあるようなブランドの場合、一歩判断を間違えると大変なことになるので、大規模な定量調査が必要になります。ですが、Minimalぐらいの規模のブランドであれば、マーケット全体の顕在化したニーズというよりかは、徹底的にコアファンの支持を掘り下げて、推奨したくなるようなポイントを創る。また、そのポイントをどうやったら新しい顧客候補の方に伝わるかを追求するほうが大切だと思います。

矛盾に気づくことがインサイトをあぶり出すきっかけに

井手:今日、山口さんのお話を聞いて、改めて、顧客インサイトをどう把握するかが大切だと思ったのですが、顧客インサイトを把握する上で山口さんが日々意識されていることはありますか?

山口さん:そうですね。それに関しては、僕は明確に2点あると思っています。

1つ目は、自分の体験の引き出しを増やすということです。

他人を理解することって、基本的に難しいじゃないですか?多くの人は、他人の感情を理解するために、自分の過去の感情や経験のストックを参照して腹に落ちることが多いと思うんですよね。

例えば、今日、Minimalの話をしましたけれども、カカオ豆の素材によって味わいが変わる面白さを言葉で伝えるのって、すごく難しいですよね。でも、そういう時に、類似している体験を引っ張り出し、例えば「Minimalはスペシャルティコーヒーのようなものです」と話したとしましょう。そうすると、スペシャルティコーヒーを経験していて、豆によって味が変わるというのがどういうことかを想像できる人であれば、Minimalの良さが少しは伝わると思うんです。

そうすると、どれだけ自分が感情の引き出しを持っていれるかが大事になってくるわけです。色々な体験のバリエーションによって、感情や経験の幅を広げて、ストックを増やすことは、顧客インサイトを理解するうえでとても大切だと思います。

2つ目は、行動は嘘をつかないということです。逆にいうと、言葉は自覚的にも、無自覚的にも嘘をつくということですね。

例えば、「好きな異性のタイプを教えてください」という質問をしたあとに、「過去に付き合った人はどんな人か教えてください」と質問します。すると、面白いことに、両者が一致することは、ほとんどないんです(笑)。この場合、過去に付き合ってきた人の共通性にこそ、その人の本質的な好みが隠れていると思うんですね。商品やサービスを選ぶという行為も基本は同じで、何を選んできたかという事実にこそ本質が隠れています。

人の言動に矛盾がある。そして、その矛盾に気づくことがインサイトをあぶり出すきっかけになると思っています。

井手:なるほど。すごく腹落ちすることばかりですね。インサイトを掘り起こすために、この2つを意識して日々過ごしていきたいと思います。

ー 以上、トークセッションの内容をお届けしました。

これからの時代、企業であれ、個人であれ、ブランドづくりが、ますます重要になってくることを否定する人はいないと思います。

そんな時代において、ブランディングに対する手引書として、今回の山口さんの新刊は読みやすく、具体例も豊富に掲載しているので、個人で読むのはもちろん、企業で働いている方であれば、社内で読みまわしをしたり、課題図書としてチームで読んでみるのも有効だと思います。

ブランディングに初めて取り組む方はもちろん、多くのビジネスパーソンにとって、おススメできる一冊ですので、是非、チェックしてみてください!

山口さん、朝早くから、ありがとうございました!

Text by 井手桂司(@kei4ide
Photo by 矢野拓実(@takumiYANO_

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★参考記事:
「スタートアップのCEOこそ、朝5時に起きるべき。」渋谷発の朝活コミュニティ「朝渋」プロデューサー、井上皓史さん (HARES.jp)