目の前の仕事を一生懸命やり、成果を出し、組織に貢献し続けれて入れば、年収は自然と上がるはずだ。
だけど、現実には30歳を過ぎた頃から、成長しているという実感に比べて、なかなか給与が増えなくなってきた。
お金が全てではないけど、自分は、このままでいいのだろうか…?
そんなキャリアにモヤモヤを抱えているマーケティング界隈のアラサーの方々に、特にオススメしたいのが、書籍『マーケティングの仕事と年収のリアル』です。
“労働市場における「自分」という商品のマーケティング戦略がおろそかになっている人は意外と多いのです。”
「はじめに」に書かれている、この一文。
「自分のことかも…!」とドキッとした方も多いのではないでしょうか?
マーケティングやブランディングの世界でも、「戦略が大事だ」と耳にたこができるほど言われていますが、キャリアにも同じことが当てはまると、著者の山口義宏さんは言います。
マーケティング職として、自分が望むキャリアを歩むために、どういう考え方が必要なのか?
それをお聞きするために、朝渋では、山口さんをゲストに「著書と語る朝渋」を開催しました。今回は、その模様をダイジェストをお届けします。
山口義宏(やまぐち よしひろ)さんのご紹介
山口 義宏さん
インサイトフォース代表取締役。
東京都生まれ。東証一部上場メーカー子会社で戦略コンサルティング事業の事業部長、東証一部上場コンサルティング会社でブランドコンサルティングのデリバリー統括などを経て、2010年にブランド・マーケティング領域支援に特化した戦略コンサルティングファームのインサイトフォース設立。大手企業を中心にこれまで100社以上の戦略コンサルティングに従事している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
キャリアに悩んでいるマーケターが意外と多い…。
山口さん:
『マーケティングの仕事と年収のリアル』という今回の本ですが、本の帯が「あの人の給料、なぜ私の3倍も⁉︎」という強い言葉が書いてあります。
ただ、年収の話は皆さんに興味持っていただくための半分は釣りです(笑)。
年収はもちろん大切ですが、短期的に騙すようなトリッキーなやり方で年収をあげるのではなくて、自分がどう成長したいかを見定めた上で、成長と連動して年収が高まる道筋を考えてもらいたいと思っています。
今回の本を書いた理由ですが、私は、これまで100名を超えるマーケティング職の方々から転職やキャリアに関する相談を受けました。アドバイスを繰り返して行くうちに、お伝えしている内容の大筋はほとんど一緒だと思ったんですね。そこで、Facebookやnoteに私の考え方をまとめてみたところ、すごく反響がありました。
もしかしたら、マーケターとしてキャリアを作るということに悩んでいる人って、多いのではないかと気づいたんですよね。
確かに、マーケティングの世界って、”マーケティング”という言葉の意味が広すぎて、全体像が見えずらく、マーケターとしてキャリアを高めるというのがどういうことなのかわかりづらい。
例えば、一部の大手総合代理店と、外資系の事業会社であれば、社内の評価を高めれば30歳前後で年収1,000万円に到達しますが、それ以外の会社だとそうはいかない。単純にスキルを高めるだけでは、一定のラインを超えると給与が伸びづらくなってきます。
また、日本の事業会社だったりすると、商品企画や広告宣伝などのマーケティング4P施策を横断的に連動させて売上と収益を高める責任者となるブランドマネージャーのポジションがなく、ある特定のマーケティング施策領域の担当者以上の、マーケティング上級職のキャリアが公式には存在しなかったりするんですよね。
なので、年収が決まる仕組みだったり、企業タイプごとの構造の特徴を知るなど、マーケティング職におけるキャリアの全体像を知ることで、「こんなはずじゃなかったのに…」というロスを防ぐことができると思うんです。
マーケターとしてキャリアが行き詰まる際の理由ですが、大きく次の3つのことを理解不足かなぁ…と思っています。
1つ目は、年収が決まる仕組み。2つ目は、成長の道筋。3つ目は、自分の気質というか、性格的な向き不向きです。
この3つを理解する手助けをすることが、この本の趣旨になっています。
スキルと連動して給料が上がるは、誤解。
山口さん:
まずは、年収が決まる仕組みについて話をします。
実は、アラサーくらいの方々からの年収に関する相談が結構多いんです。
スキルも上がってきて、支援会社だとクライアントも評価してくれて、自分も成長している実感があるのに、給与の伸びはすごく止まってきた…という話が増えているんですよ。
でも、そもそも、スキルと連動して給料が上がるというのは誤解なんです。
もちろん会社も、その人の成長やスキルに応じて給料を伸ばしてあげたいと思うんですけど、経営者からすると、給与の原資、配分のパイとなるのは粗利です。粗利とは、売り上げから、そのサービスやプロダクトの提供に使われる原価を引いたものですよね。
その粗利が、皆さんの人件費だとか、オフィスの家賃だとか、販促費だとか、色んなものにお金を使う原資になるので、粗利がどれだけあるのかがベースになってくるわけです。
そして、業界構造によって粗利率と額はかなり違うんですよ。例えば、企業に広告枠を売るビジネスだとメディアに仕入れでお金を払うので、粗利率は高くない。でも、大手広告代理店なら大企業から年間で100億円くらいの広告予算を得ることもあります。100億円もあれば粗利率が低くても、粗利の額はすごいわけですよね。
そういう意味で、給与の伸びしろを気にするのであれば、自分がいる会社や関心を持っている会社の粗利額や粗利率というのを、まずは気にしてください。社員ひとりあたりの粗利額と給与水準というのは、基本的に連動しやすい傾向にあります。
給与は社内の評価制度や報酬制度によってある程度ルールで決められるわけですが、そのパイの大きさによって給与水準そのものは影響されやすい構造にあります。パイの配分は、基本的に役職が高い人の配分が増えるため、2番目に気にすべきは社内でのポジションで、どれだけ早く上層部に行けそうか?ということです。裏を返せば、どれだけ出世を待てるか?です。
ただ、それに単純にそれに紐づかない、それらの構造をHackして給与を高められる要素は、需要があって供給が少ないスキルを持っている人材です。
人材市場というのもマーケットなので、需要と供給の中での価値が決められるわけですね。自分が持っているスキルを代替できる人材が市場にいない場合、当然、年収に対する交渉はしやすくなるし、企業側もそういう人材には高い報酬を払わないと採用も維持もできません。
なので、全体の粗利を大きくしつつ、その粗利から大きな配分がもらえるポジションにいくか、需要があって供給が少ない人材となって交渉力を高める。年収を高めるためには、この基本構造をまずは頭に入れておいてください。
事業会社と支援会社、それぞれの特徴。
山口さん:
次にマーケティング業界の構造ですが、まずは大きく支援会社と事業会社の2つに別れます。
事業会社は、商品・サービスの製造。もしくは販売。またはその両方を展開する会社です。ユニクロなどは、企画から製造、販売まで全て1社で行ってますよね。
支援会社は、事業会社のマーケティングを支援するサービスやITシステムを提供する会社です。広告代理店もあれば、PR会社、調査会社だったり、ITのサービスを提供するベンターもここに含まれます。
事業会社の方だと、マーケティング全体のバリューチェーンを見渡しやすい環境にあるんですよね。例えば、商品企画部に配属されても、広告宣伝部や営業部と調整することが必要になったり、研究開発が何をやってるかを把握したり、商品の在庫が残ったら何が起るかを体験したり。
ただ、専門性は磨かれずらい。そもそも専門性というのは、短い期間、狭いスコープでたくさん繰り返すことがないと身につきずらいことだったりするので。
逆に、PR会社やSNSマーケなどの支援会社だと、短い期間で様々な会社を相手にしつつ、特定の同じ領域の仕事を繰り返すので、専門性は育ちやすい。
また、支援会社では、誰がいくらの案件を獲得してきて、どれだけの粗利をあげているのかという数値がダイレクトに社内で可視化されるんですよね。
また短いスパンの仕事が多く、次々と案件を追いかける形になるので、狩猟型のスタイルの会社になることが、ほとんどです。つまり、個々人が数字目標に追われるプレッシャーは高くなりやすい傾向にあります。
すごい優秀なんだけど、狩猟型の圧力が苦手な人も結構いるので、そういう方は支援会社、特に規模の小さいところは向いていないかもしれません。
30代半ばまでに、選択すべき2つの道。
山口さん:
ここからは、仕事のステージということで、マーケティング職としての成長の道筋について話をします。
まず上の表の一番下にある【Stage1】は、マーケティングの基礎習得の見習いです。マーケティングは専門用語がとても多いので、そういったものを理解する段階です。
【Stage2】は、自分の細分化された担当業務を、上長の指導のもと、一人で完了できることを目指す段階です。
【Stage3】は、特定のマーケティング施策領域のスペシャリストを目指す段階で、Stage1から3は、特定の領域の専門性を磨いていきます。
そこから先はマネジメントの世界になっていって、【Stage4】のマーケティング施策の統合者であるブランドマネージャーは4P施策を統合し、担当するブランドやプロダクトの収益に責任を持つので、責任が重くなります。いわばオーケストラの指揮者で、すべての4P施策を調和させ、結果を出さねばなりません。
更に、その上のCMOになると、ブランドマネージャーを束ねて、ブランドが複数ある会社であれば、限られた経営資源であるお金や人の投資リソースを全社最適の目線で傾斜配分していく役割になります。
大抵、多くの方は、【Stage3】のスペシャリストの入り口で評価を停滞させたままで終わることが多いです。
なぜかというと、そもそもの向き不向きで厳しい人もいますが、ある程度の成果を出している人でも、スペシャリストの世界はレッドオーシャンで、めちゃくちゃ優秀な人たちがしのぎを削って争っているので、ここで頭一つ抜けて勝っていくのは、かなり激しいサバイブなんですよ。スペシャリストは参入しやすいけど、競合が多いマーケットです。
じゃあ、マネジメント側はどうかというと、ブランドマネージャーというポジションは、外資系じゃないとポジションがなかなかないのが実情です。
国内の事業会社でも、商品企画の担当者が、公式権限はないけど、他部門と合意形成をはかって、実質的にブランドマネージャー的機能の一部を担うみたいなこともあります。ただ、組織が大きくなればなるほど、部門間の壁が大きくなり、合意形成のハードルは高まります。
マネジメントは、それが担える該当者と認められるハードルは高いですが、マーケティングに長けたマネジメント人材は供給が非常に少ないため、参入障壁は高いものの、その中に入ってしまうと競合との競争は緩和されます。もちろん、そもそもマネジメントとしてちゃんと業績で成果を出すというのは非常に大変なことですが。
この図では、【Stage4】以降がマネジメントと書いてますが、スペシャリストよりマネジメントが偉いということではありません。あくまでも選択の問題で、スペシャリストでも突き抜けて独立した人の一部は、マネジメント側より年収が高いということもありえます。
皆さんには、30代半ばまでに、「自分はスペシャリストとして極めていくのか?」、それとも「マネジメントの領域で勝負をしていくのか?」を、ある程度決断した方が良いかなと思っています。
どうしても克服できなそうなものは何か?
山口さん:
最後は、自分のキャリアを考えるにあたり、気質としての、”自分の向き・不向き”を考えて欲しいという話です。
例えば、事業には導入期・成長期・成熟期というライフサイクルがありますよね。
ゼロから事業を立ち上げる導入期と、安定的に収益を上げていく成熟期では、当然、求められるスキルが変わります。
どっちが偉いというわけではなくて、メディアでチヤホヤされるのは導入期で活躍する人が多いですが、その事業を規模拡大するために営業と納品を組織化するのがうまい人、成熟期を迎えてもコストマネジメントで利益を安定的に得る仕組みを作るのがうまい人、様々です。
全て器用にこなせる人も稀にいるんですけど、大抵は偏っているんですよね。事業の立ち上げが上手いんだけど、その後の拡大でつまづく人もいる。成長事業をスケールさせるのは上手いんだけど、新規事業の種を見つけるのは苦手な人もいる。
また、どうしても気質や価値観が合わず、うまく行かない仕事や組織文化もあれば、興味・関心が持てない仕事や組織というのもあると思うんですね。私もあります。要するに相性です。
努力する前から諦めても仕方ないですけど、20代で必死に努力をしても、どうしても克服できそうにないことは、基本的に向いていないので、30代以降で不向きなことを努力をするのは、私は基本的に評価を得るという目的に対しては無駄だと思っています。苦手なことはどれだけ努力してもせいぜい人並みです。市場で評価される卓越レベルにまではいきません。
不向きなものは何かを把握して、「自分は、支援会社向きなのか、事業会社向きなのかを?」、また、「スペシャリストなのか、マネジメントなのか」を見極めた方が、得るものが少ない余計な遠回りを避けられ、不幸なキャリアにならずにすむと伝えておきたいです。
もともと、非常に学歴が高く、社歴も悪くない。しかも努力家。なのに、徐々にキャリアがやせ細っていく方は結構な数でいます。そういう方の多くは、自分の憧れと不向きなことのミスマッチの分別がつかないまま、成果の出ない努力を重ねていることが多いものです。
もちろん強調したいのは、20代のうちは、何が向き不向きかはわからないですから、目の前のことを全力で向き合うのは大切です。向き合わない人は、いつまでも卓越できる領域を見つけられないままです。
お金を稼ぐとは、何なのか…?
山口さん:
今日は、下世話に年収について話をしましたが、お金の優先順位は人それぞれですし、それで良いと思います。ただ、お金を持っているということは、リスクをとった挑戦がしやすくなるというメリットは確実にあることは伝えておきます。
年を重ねると、人によっては結婚したり、子供を持ったり、生活レベルもあがってしまい、どうしても経済的なリスクをとって挑戦することが徐々に難しくなります。
でも、ある程度、若いうちから稼いでおけば、資産の余裕ができるので、目先の年収が下がるような、リスクをとった新しい挑戦を決断しやすくなります。そのような挑戦が、自分の能力を伸ばし、市場での価値を高める、維持することにつながる好循環を生み出します。
専門性なんてカテゴリごと需要が突然死するような変化の激しい時代ですから、新しいことにトライできる余裕ができるということは、成長し、稼ぎ続ける上ですごく重要です。
そういったことを理解し、自問自答した上で、キャリアの答えを探してもらえるといいんじゃないかなと思います。今日はありがとうございました。
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以上、『マーケティングの仕事と年収のリアル』の著者の山口義宏さんをゲストに迎えた「著書と語る朝渋」のレポートとなります。
マーケティングやブランディングも、まずは戦略を立て、そのあるべき姿に向けて各施策の一貫性を高めていくことが大切だと良いますが、これはキャリアにおいても一緒ですね。
目の前の仕事に追われることが多いと多いますが、時には時間を作って、自分のキャリアについて長い目で考えてみることが大切だと思いました。
支援会社で働いている人も、事業会社で働いている人も、是非、『マーケティングの仕事と年収のリアル』を読んで、自分のこれからについて見つめる機会をつくってもらえたらと思います。
山口さん、朝早くから、ありがとうございました!
Text by 井手桂司 / Photo by 矢野拓実
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