「どうすれば、このチームで最大の成果を引き出すことができるのか?」
メンバーの力を結集させて、大きな成果を手にしたい。そう願う誰もが知りたいのが、この答え。でも、答えを見つけるのは、なかなか容易なことではありません…。
そこで朝渋では、そのヒントを得るために、14年連続で増収増益を続け、「働きがいのある会社」のベストカンパニーにも選ばれている、株式会社ヤッホーブルーイング代表取締役社長・井手直行さんをゲストに迎えました。
井手さんは、チームの成果とは、「打ち手の質」と「打ち手の実行」の掛け算で決まると言います。
「どんなに素晴らしい打ち手を思いついても、チームメンバーの納得感が低ければ、スムーズに実行が進みません。逆に納得感が高ければ、メンバーはやる気に満ちて、想像以上の成果を生むことができます。
そのためにも、打ち手に対する充分な納得感を生むための仕組みづくりが重要で、その根底をなすのが“フラットな組織”です」
井手さんに、ヤッホー流のチームで成果を生む秘訣を語っていただきました。
<ライター:井手桂司>
【井手 直行(いで・なおゆき)】株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長。ニックネーム:てんちょ。1967年(昭和42年)生まれ。福岡県出身。広告代理店などを経て、97年ヤッホーブルーイング創業時に営業担当として入社。2004年楽天市場担当としてネット業務を推進。看板ビール『よなよなエール』を武器に業績をⅤ字回復させた。08年より現職。全国200社以上あるクラフトビールメーカーの中でシェアトップ。14年連続増収増益。著書に『ぷしゅよなよなエールがお世話になります』(東洋経済新報社)
どん底からの再出発。この会社に人生を賭ける。
井手さん:
はじめに、僕らヤッホーブルーイングの紹介をさせてください。
看板商品は『よなよなエール』。1997年に会社が創業した時から販売しています。コンセプトは「家庭で飲める手頃な本格エールビール」。斬新なネーミングとパッケージ。そして目隠しして飲んでもわかる個性的な味わいが特徴です。
創業当初は地ビールブームもあり、メディアに多数取り上げられました。当時の僕は営業担当でしたが、営業をしなくても色んなところから発注がきました。地ビールってこんなに売れるんだ、楽勝じゃん!そんな風に思っていたんです。
ですが、地ビールブームが去り、99年を境に売上はどんどん下降していきます。僕らだけではなく、どこも同じような状況でした。全国で約300社あった地ビール会社が、倒産や事業撤退により半数くらいの数まで減りました。
当時、僕の頭の中にも「倒産」の二文字がずっとありました。
もちろん社内の雰囲気は最悪で、陰口、悪口が横行していました。営業は製造が美味しいビールを作らないから売れないと言う。製造は営業が売ってこないから悪いと言う。そして、人もどんどん辞めていきました。
井手さん:
でも、そんな状況でも、よなよなエールを応援してくださるファンの方々がいらっしゃいました。また、会社に残って歯を食いしばって頑張っている社員もいます。そんなファンや社員の姿を見ていると、胸に込み上げてくるものがありました。
当時の僕は単なる平社員でしたが、「この会社に自分の人生を賭けよう」と初めて心に誓ったんです。
そうすると、失敗続きでネガティブだった気持ちが嘘のように、ポジティブに物事を見ることができるようになったんです。見える景色が変わって、様々な取り組みを始めることができました。
そして現在はどうなったかというと、創業から8年連続赤字だったのが、現在14年連続で増収増益を続けています。IT企業でもないのに、こんなに急成長をしているビール会社は僕らだけではないでしょうか。
ヤッホーがヤッホーであるために大切な『ガッホー文化』
井手さん:
僕らが飛躍できた要因は様々ありますが、特に大きな要因となったのが会社の組織文化を変えたことです。
僕らは自分たちの組織文化のことを『ガッホー文化』と呼んでいます。「頑張れヤッホー!」の略です。
井手さん:
ガッホー文化は6つの要素から成り立っていますが、土台にあるのは「フラットな組織」です。みんな平等で、自由に議論ができる組織を目指しています。
もちろん組織なので役割はあります。僕だったら社長です。他にも部門長、リーダーといった役割があります。でも、役割を持っているから偉いわけではありません。上下関係なく、お互いフラットに接しています。その一例として、お互いをニックネームで呼びあっています。僕のニックネームは「てんちょ」ですが、若いメンバーから「てんちょ、やるじゃん」とか言われます(笑)。
このフラットな組織で、僕らは「究極の顧客志向」を目指します。普通の顧客志向じゃないですよ。究極を目指しているんです。常にお客さんの方を向いて、お客さんが喜ぶことを徹底的に考え、実践していきます。
これを実現するために、僕らは3つの行動指針を大切にしています。それが、「お互いが切磋琢磨する」「仕事を楽しむ」「自ら考えて行動する」です。
そして、これらの行動にあたり、「知的な変わり者」であることを合言葉にしています。僕らのアイデンティティといってもいいでしょう。
今日は、その中でもベースとなる「フラットな組織文化」について、詳しく話をしていきます。
物事の成果は、「打ち手の質×打ち手の実行」で決まる。
井手さん:
僕は、チームや組織で楽しく働くためには、フラットであることが一番大切だと思っています。なぜなら、そうすることで最大の成果をだせるからです。
そもそも、成果というのは、「打ち手の質」と「打ち手の実行」の掛け算で決まります。
井手さん:
まずは、打ち手の質を高めることが重要です。ただ、どんなに素晴らしい打ち手でも、それを実行するメンバーのモチベーションが低い場合は、その打ち手が確実に実行されない可能性があります。
例えば、トップダウンで打ち手の指示を受けたとします。それに対して心の底では納得できなかったり、乗り気でない場合は、表面的な実行になってしまい、頑張れば10できるところが、3や2くらいの成果になることが往々にして起こります。
では、どうしたら、この掛け合わせが高まるのか?
まず、「打ち手の質」を高めるには、充分な意見の抽出が大切です。多くの人からアイデアを募るということです。
僕が社長だからと言って、僕の言っていることが正しいとは限りません。僕なんて、最近出張ばかりで、現場のことがよくわかっていない。そんな人間が物事を決めるほうがリスクです。全員で意見を出し合ったほうが、質の高い打ち手が生まれる確率が高まるのは間違いないわけです。特に現場のことは、現場の人間が一番よくわかっています。
次に、「打ち手の実行」を高めるには、充分な納得感が必要です。
納得していないと、やる気なんてでないですよね。「会社がこんな方針を打ち出したけど、わかってないなぁ、うちの経営陣は…」みたいな状態で高いモチベーションを出すのは不可能です。でも、充分な納得感があれば、「よし、それに違いない、頑張ろう!」と思えるわけです。
井手さん:
そして、充分な意見の抽出と納得感を生み出すためには、お互いがフラットな関係で健全な議論ができることが求められます。
でも一般的に、上司や先輩社員には物申しづらい雰囲気があると思います。また、先輩社員も年下の社員より自分の方が優秀だと思ってしまっていたりする。フラットな議論って、なかなか実現が難しいんですね。
だから、僕らはフラットな組織文化を築くために、様々なコミュニケーション施策を行っています。先ほど話した『ニックネーム制』も、その一つです。
では、他にどんな施策をしているのかをお話しします。
フラットを育むコミュニケーション施策とは?
井手さん:
例えば、僕らは毎朝の朝礼で30分間の『雑談タイム』をとっています。
各自のプライベートな近況とか、仕事に関係ない話をグループで輪になって全員が話します。8時間労働のうちの貴重な30分をずっと雑談しているんです。でも、これをすることで、自分を開示し、メンバーとの心の距離感を近づけることができます。
また、『資質テスト』といって、各自の強みをお互い把握するようにしています。これはストレングスファインダーという資質を測定する診断ツールを使います。人間が持つ34の資質のうち、自分の上位5つの資質がわかるというものです。
資質というのは、その人の個性なので、解釈次第で強みにも弱みにもなります。僕の上位の資質のひとつは「自我」です。これをマイナスに捉えると、我が強くて、人の言うことを聞かないとなります。でもプラスに捉えると、人前でも全然緊張しなくて、注目されるほど力を発揮するという資質なんです。だから僕は、人に注目されるところで仮装して振る舞うことが得意なんです(笑)。
資質というのは凸凹であることを理解して相手と接すれば、一見短所に見える部分も、プラスに捉えて、その個性を伸ばそうと思えます。僕らは、一人ひとりの個性を尊重し、その個性を大切に伸ばしていきたいと思っています。
井手さん:
それと、『ユニットディレクター立候補制度』といって、各ユニット(チーム)のリーダーをやりたい人が自ら立候補して、全スタッフの前でプレゼンを行い、スタッフからのアンケート結果を参考にして、次の年のリーダーを決める制度があります。
年齢に関係なく、若い社員でも、いいプランを考えて、メンバーとの人間関係を構築できていたら、誰でもリーダーになれる可能性があるんです。同時に、メンバーにとっても自分が所属するチームのリーダーを自分たちで決めるので、納得感が生まれます。
ただ、立候補しても落選したり、それまでリーダーだった人が他の人に変わられることもあります。こんなことをして人間関係がギスギスしませんか?と聞かれることもありますが、そうならないように、社内のコミュニケーションの量と質を高める施策を同時に幾つも実施しているんです。
現在は、落選してしまった人も、自分の力がまだ及ばなかったと捉え、「もっと勉強しよう。来年もう一度挑戦しよう」と思ってくれて、非常にいい循環になってきていると感じています。
他人は変えられない。まずは自分が変わろう。
井手さん:
こうしてフラットな組織文化を推進していたら、「働きがいのある会社」の従業員数100人〜999人の部門で、3年連続でベストカンパニーに選ばれるようになりました。外資系やIT系のホワイトカラーの会社ばかりが選ばれるなかで、地方の製造業でベストカンパニーを受賞するなんて、極めて異例だそうです。
一時期はどん底のひどい会社だったのが、働きがいのある会社になってきました。
そして、こんな活動をしていたら、僕らのファンの皆さんも幸せになってきたんです。よなよなエールを飲んだり、よなよなエールのイベントに参加すると楽しいと言ってくれます。
最近では、僕らの取引先の企業の皆さんも同じようなことを言ってくれます。「ヤッホーブルーイングさんと一緒に働いたおかげで、ウチの社員がみんなイキイキとしてきたよ」みたいな。
僕たちの周りが幸せになっていく様子を見て、きっと僕たちは、よなよなエールで世界を平和にできるのではないかと思うようになりました。
今では、よなよなエールでノーベル平和賞を受賞したいと本気で思っています。
井手さん:
今日、僕らの話を聞いてもらって、少しでも良いなと思っていただいたら、まずは自分が変わることから是非始めてみてください。
人を変えようと思っても難しい。人を操作することはできません。でも、自分は変われます。今からでも変われます。自分のことですから。
僕も本気で変わろうと思ったのは、30代後半です。そこから色々と勉強をして、自分が「これだ!」と思う会社やチームの姿を信じて、諦めずに続けてきました。
そして面白いことに、自分が変わると周りも変わるんですよね。隣の奴が変わって、その輪がどんどん広がっていく。
会社とか職場に色んな不満があると思います。でも、それを言ってもしょうがない。
だから、まず自ら変わっていってほしいと思います。応援しています。
Text by 井手桂司(@kei4ide)
Photo by りえこ(@rie_cco_desu)
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