「採用と人事が優れている会社は、事業も強い」
人事のスペシャリスト8人による共著『トップ企業の人材育成力 ―ヒトは「育てる」のか「育つ」のか』のなかで、株式会社ワンキャリアの最高戦略責任者・執行役員である北野唯我さんはこう断言しました。
経営の鍵を担う重要なリソースである優秀な「人材」をどのように採用し、どうやって強い組織をつくっていけばよいのか?
今回は、そんな『HR戦略』について、ビジネスシーンの最前線で実践しているスペシャリストたち3人にお話ししていただきました。
前述の北野唯我さん、セプテーニの平岩 力さん、元Sansan採用責任者で現カケハシの西村 晃さん。モデレーターはオイシックス・ラ・大地株式会社の三浦 孝文さんです。
〈文=ゆぴ(17)〉
(左)北野 唯我【きたの・ゆいが】株式会社ワンキャリア 最高戦略責任者・執行役員。新卒で博報堂の経営企画局・経理財務局で中期経営計画の策定、MA、組織改編、子会社の統廃合業務を担当し、米国留学。帰国後、ボストンコンサルティンググループに転職し、2016年ワンキャリアに参画、執行役員。2019年1月から子会社の代表取締役、ヴォーカーズの戦略顧問も兼務。30歳のデビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)が14万部。2作目『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)が発売3ヶ月で9万部。編著に『トップ企業の人材育成力』。1987年生。
(中央)西村 晃【にしむら・あきら】株式会社カケハシ 人事。証券会社、個人事業主を経て、2015年にSansan株式会社入社。人事部シニアマネジャーとして、採用責任者を務める。2016年より個人向け名刺アプリ「Eight」にて新規事業「Eight Talent Solutions(現:Eight career design)」の事業責任者に就任。2019年より株式会社カケハシにジョイン。人事として採用や制度設計などに従事する。現業と並行し、個人で採用/制度設計、HR tech事業立ち上げのコンサルティングを実施している。
(右)平岩 力【ひらいわ・りき】株式会社セプテーニ コーポレート本部人材開発部 部長。2007年にセプテーニ・ホールディングスへ新卒入社し、約3年間、人事として新卒採用・研修等を担当。2010年より事業会社セプテーニへ転籍し、約4年半の営業経験を経て、2015年に広告代理事業の中途採用部門を立ち上げる。並行して、開発に特化した子会社、セプテーニ・オリジナルの取締役を兼務し、主に人事領域を担当する。現在は広告代理事業の人事部門に所属。採用・育成・組織開発等を担当。
三浦 孝文 【みうら・たかふみ】オイシックス・ラ・大地株式会社 HR本部 人材企画室 人材スカウトセクション マネージャー。D2C、CookpadでのHRを経て現職。HRコミュニティ「人事ごった煮会」の発起人。さとなおラボ7期生。Business Insider Japan主催「Game Changer 2019 Leadership」部門 グランプリ受賞
採用のKPIは何に置くべきか?
三浦さん:
いきなりですが、僕のなかでの最近の問題意識が、採用担当のKPIが「人を獲得する」ことにあって、そのあとの定着や活躍に意識がいっていないということなんですよね。
皆さんの場合、採用にあたって意識していることは何ですか?
平岩さん:
うちの場合、採用後の活躍はかなり意識しています。
社内で活躍している人のタイプをデータ分析して、どういう人材がセプテーニに向いていて、高いパフォーマンスを発揮しやすいのかの傾向を掴んでいるんです。その傾向にフィットする人たちを多く採用するための施策を行い、採用活動をチューニングしていますね。
三浦さん:
なるほど、それはすごいですね。どういう問題意識からデータを活用しようと思ったんですか?
平岩さん:
10年くらい前になると思いますが、事業は非常に速いスピードで成長する一方で、人材供給も現場のマネジメントも共に追いつかない苦しい時期があって。特に新卒採用においては、大企業や同業他社と競合する中で、100名以上を採用し、迎え入れるのはとても大変でした。そんなとき、メジャーリーグの資金のない球団が独自のスカウト方法でリーグで1位を取っていく物語を描いた『マネーボール』という本を現代表の佐藤から人事担当役員、そして僕たちに渡されました。
いわゆるメジャーの王道のスカウト方法って「高年俸でスター選手を獲得する」ってことなんですけど、物語に出てくるその球団は、「出塁率」といった独自のデータロジックで目利きし、見込みのある選手をスカウトするという手法を取ったんです。
「うちもこういう思想で採用ができないか」という経営陣の着想から、データ活用に取り組むようになったんですよ。
三浦さん:
それは面白い。西村さんはどうですか?
西村さん:
1番のKPIは内定承諾率ですけど、もう1つ、裏KPIとして落選者推薦率というのを追っていた時期もあります。内定辞退者から友人を推薦してもらえるか、というリファラル率です。
内定辞退者に「来てもらえなくて、めちゃくちゃ悔しいよ!」という想いを伝えて、良い人がいたら紹介してほしいと言うだけ言ってみる。
そこで人を紹介してくれたら、良いコミュニケーションが採用担当として出来ているということだと思うんですね。
三浦さん:
なるほど。斬新な手法ですが、採用希望者との関係性がどれだけ深いものになっているのかを測る良いKPIかもしれませんね。
優秀な人材だと気づいたら、すぐに投資する!
三浦さん:
また、採用においても人を育てるという意味でも、経営陣との関係が重要になるのは間違いないと思いますが、人事として経営陣とどう関わってますか?
北野さん:
これは100%言えますけど、採用や育成を通じて、1番成長するのが経営者なんですよ。
ビジネスパーソンの成長は意思決定の回数で決まるんですけど、どう考えてもCEOの意思決定回数が1番多いし、悩みもたくさんあるじゃないですか。
だから、社長も成長中で、全然完璧じゃないことを周りのスタッフが理解するのは、ものすごく大事なんです。
次に、「次世代の経営陣を育てる」という視点でいうと、ある程度は狙って育てるという視点を持たないと難しいと思っています。
GEでは今30歳くらいの年齢の人がアジア代表をやってるらしいんですけど、もともとその人は普通のアルバイトで、8年でその地位に上り詰めていたらしいんですよ。
GEには、入社して1年くらいで「こいつは優秀だ」と思ったら、継続して次の1年も成果を出したら次のポジションを与えていくという『2年ルール』があるらしいんですよね。石の上にも3年と言いますが、3年も待っていたら辞めてしまう可能性も高い。
なので、もし次の時期経営陣を育てるという視点で言うならば、明確に狙って育てるのは重要ですね。
CHROと採用担当の違いは経営の”視点”
三浦さん:
昨今、CHRO(Chief Human Resource Officer – 最高人事責任者)ブームがあると思っていて、それに関してはどう思います?
北野さん:
CHROの役割は、採用だけではなく、経営のレベルだからこそ、見えることを先回りして解決することですよね。
たとえば、「CHRO と言えば誰か?」の問いには必ず名前が挙がるサイバーエージェントの曽山さんは、適材適所にフォーカスしていて、今の人員配置が100点なのかを自身に問い続けるらしい。これは経営の視点もっていないと出ない視点ですよね。
もし、事業部Aにスーパースターがいたとしても、実はその人は事業部Bにいたらもっと活躍できるかもしれない。本人も本当は新しいことにチャレンジしたいのに、既存の部門への責任感があって、それを口に出せない。そういったことを捉えて実行に移すことができるのが、CHROなんですよね。
ただ、曽山さんに採用と教育のどちらが大事かと聞くと、やはり大事なのは採用らしいんですよね。でもそれは下に任せられることで、自分がやるべきものではないという認識らしいんです。このように、CHROと採用担当のポジションは分けることができそうです。
西村さん:
あとは、やっぱり人事担当者がCHROをできるようになるのかという問題がありますよね。人事の若手の人の話を聞くと、「人が好きです!」という人が多いのが現状です。
ただ、CHROはそこを超えて経営者として数字とかに向き合えるかがすごく大事。
たとえば、外資コンサルティング会社に現在いらっしゃる方で「人事に興味ある」という人が面談に来たりするんですけど、その人を人事としてベンチャー企業に紹介すると、いきなり経営者に近いレベルで仕事ができたりすることがあります。現在人事をされている方の中でそういった方が多くない現状はあると思います。
北野さん:
人が好きなのはもちろん大事ですが、CHROに向いている人って、優しさと厳しさの両方を持っている人がパーソナリティーとして必要だと思っています。
悪い意味で言うと、経営者は、「使い倒す」「安い給料で働かせる」「利益最大化」みたいな厳しさだけでも何とかなる職種ではあるけど、CHROはパーソナリティーとして両方があるのが向いているなと思っております。
あとは、「哲学」が大事だと思っていて、人事哲学や思想を追い求める人じゃないと優れたCHROにはなれないんじゃないかな、と思いますね。
社員を育成するのではなく、マーケットを育成する
三浦さん:
最後に、最近注力していることについて聞いてもいいですか?
平岩さん:
1つはスキルの可視化です。日本の企業は総合職採用で、ゼネラリスト型のキャリアが評価される仕組みです。ですが、それを積み上げたときに、社内のなかだけで通用するスキルが磨かれたキャリアに陥ってしまうこともあると思うんですよね。
でも、個々人のスタッフの「こんなことができます」というジョブディスクリプションが細分化されて、そのスキルや経験がマーケットで需要があることがわかれば、どこにいっても通用できる人材を育てることができる。
もう1つは、ビジネスと人の成長を結びつけることです。「この人を育てれば、何年後にこれだけ会社にリターンがある」という人のLTVみたいなのが可視化できれば、ドラスティックな意思決定できるようになりますよね。
人が育つとビジネスにどう影響があるのか、というところに注力したいですね。
西村さん:
1つは自分を知ることです。最近では「諦める」ということを意識していて、これはネガティブワードに聞こえるんですけど、もともとは仏教用語で「物事を明らかに見る」ということなんです。
仏教が大切にしているのは「執着を外せ」ということなんです。
そうやって物事から執着を外して本質を見たときに、自分に苦手なことがめちゃくちゃあるということに気付けるので、「それを誰かに任せたりお願いする」ことを意識すると、すごく楽しく働けるようになります。
あとは、「一緒に働く人との関係性を良くする」ということですね。友だちのように働いたほうが絶対楽しいし、成果が出なかったら二人で泣きながら飲めばいい。それは人事の立場などとは関係なく気をつけていることであったりします。自分の実力不足でいつもできるわけではないのが歯がゆいのですが・・。
北野さん:
僕のなかには、農耕民族的に成功したいという想いがあります。
たとえば、トヨタは地産地消といって現地に工場を作るじゃないですか。どうしてそんなめんどくさいことをするのかというと、トヨタの車は全世界を走っていて、技術が世界に輸出してしまっても、その国の雇用を作るまでがトヨタの役割だと考えているんです。「桜の木」のように、ルーツは日本だけどいろいろんな国で根ざしたいのだと。
僕も、今回の本『トップ企業の人材育成力 ―ヒトは「育てる」のか「育つ」のか』は共著がいいと押し通したんですけど、それは、自分の実績を使って新たなスターを生み出したかったからなんです。
最近僕の本の内容がパクられていると多方面から報告を受けるんですけど、でもそれが世の中のためになるなら、人間関係が解決されるならいいなぁ、という広い心でやっていきたいです。
こういう考えの人は資本主義では勝てないけど、公益的な考えを持って、まわりのレベルを上げつつ、資本主義でも勝つことが僕が成し遂げたいことだなと思っています。
三浦さん:
世の中で偉人と言われる人や創業者って最後は教育の場を作っていくじゃないですか。そういうのって育てるというよりは、孫さんが投資をするようにきっかけみたいなものだけ置いておいて、それでソフトバンクの経営者は出てこなくても、何十年後かにソフトバンクを買収するような起業家が出てくれば、それでいいんだと思いますよね。
北野さん:
そういう次元でしょうね。ソフトバンクじゃなくて人類への投資として捉えているんだとと思いますよ。
平岩さん:
社内だけではなく、社外でも通用するキャリアを高めるような育成は大事ですよね。結果的にそれが会社にも個人のためにもなる。自身の価値を高めることが、結果的にマーケット全体の価値を高めることになりますよね。
北野さん:
甘いか甘くないかでいうと甘い考えですけど(笑)。でも、最近では行きすぎた資本主義にみんな疲れていると思うんですよ。それは、マネーやベネフィットではなく、ミッションオリエンテッドになってきたからで、要するに豊かになったからこそなんですよ。
公益的な考えが広まるにはあと10年くらいはかかりそうですが、そういうマインドを持つ人たちが勝つ世界になってほしいですね。
〈文=ゆぴ(17)(@milkprincess17)写真=井手桂司(@kei4ide)〉
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