継続的に成果を生み出せるチームの条件として、メンバーが気兼ねなく議論ができる「心理的安全性」の重要性が説かれています。とはいえ、実際に心理的安全性の高い関係性を築けているチームは多くはありません。
累計30万部突破の書籍『習慣力』シリーズの著者であり、数多くのビジネスリーダーのメンタルコーチをつとめてきた三浦将さんは、「いきなり心理的安全性を築くリーダーになることは難しい。まずは、心のあり方を変える習慣を持つことが大切」と言います。
新著『チームを変える習慣力』を発売した三浦さんが説く、リーダーにとって大切にすべき習慣とは何なのでしょうか?
〈文=井手桂司(@kei4ide)、写真=狐塚 勇介〉
【三浦 将(みうら・しょうま)】株式会社チームダイナミクス 代表取締役。認知心理学、アドラー心理学などを基にした、効果的かつ独創的な手法で、リーダーシップ研修、チームビルディング研修などを始め、国内外の企業の人材育成をサポートしている。累計20万部を超える習慣力シリーズ『自分を変える習慣力』『相手を変える習慣力』他、著書多数。
リーダーに最も求められる資質は、心理的安全性を築けること
三浦さん:
現在、様々なところで「心理的安全性」の重要性が言われてますよね。昔からあった言葉ですけど、Googleの発表により一躍有名になりました。
Googleが、社内で継続的に成果を生み出すチームが持っている共通要素を調べた結果、スキルやIQといった具体的な部分での共通点は何も見つけられませんでした。最終的に辿りついたのが、メンバー同士が気兼ねなく発言できるとか、お互いが思いやりを持てているといった心理的安全性が高いことだったんですよね。
ものすごい優秀な学歴やスキルのメンバーを集めただけでは良いチームにならない。心理的安全性がないチームは、継続的な成果が出にくい。これは、職場だけでなく、学校や家庭など、それ以外のコミュニティでも同様です。
これからの時代、リーダーとして最も求められる資質は、心理的安全性を築けることだと思います。仕事ができるゆえに、自信過剰で、上から目線の人のもとでは、メンバーは提案するのに気後れしてしまう。モチベーションもあがりにくい。こういったリーダーは、市場価値をどんどん失ってしまうでしょうね。
タテの関係で生きている限りは、安全性は築けない
三浦さん:
では、どうしたら、心理的安全性のある環境を築くことができるのか?
私も以前は、上から目線の上司でした。当時は外資系企業で働いていて、結果を出さないといけないプレッシャーがすごかったんですよ。部下との関係性を丁寧に高めていくよりも、ポジションパワーを使った方が、マネジメントとして手取り早いと思っていました。
このように支配を目的とした人間関係の中に存在しているのが「タテの関係」です。タテの関係とは、人に上下をつけ、自分が上、相手が下という前提で関係性をつくること。タテの関係で他人と接すると、心理的安全性のある環境づくりは永遠にできません。
タテの関係で生きているリーダーが、心理的安全性の重要度とメリットを知り、自分のチームにその環境を生み出そうと、「なんでも発信していいぞ」と発言しても、メンバーは「とか言いながら、どうせまた何かあると、こちらの意見を否定したり、ちゃんと理解してくれようとしないだろうな」と素直に発言する気にはなれません。
これが、心理的安全性という言葉が流行っているにも関わらず、実際に職場でそれをつくり出せるリーダーが極めて少ない根本理由です。学歴や年功序列を重んじてきた日本では、タテの関係で生きている人が、多いんですよね。
ヨコの関係で生きる大切さを知ってるけども…
三浦さん:
心理的安全性を築けるリーダーは、そもそも人と人とは平等という「ヨコの関係」を前提に、他人と接することができる人です。
会社という一集団の中で上司というポジションになっただけで、人間的にも自分の方が上であるかのように勘違いをして、偉そうにしたり、威喝したり、威張り散らす人がいますよね。そういうことを決してしない人です。メンバーと対等な目線で、自然と接することができるリーダーです。
私がエグゼクティブコーチとして出会ってきた一流の人たちの共通点は、この「ヨコの関係」で生きているということでした。
ヨコの関係で接し、心理的安全性が築けると、メンバーから気兼ねなくアイディアや提案が出てきます。そうすると、集合知が生まれるんですよね。各自が持っている知識や経験が組み合わさって、リーダーひとりでは解決できない問題にも立ち向かうことができます。
とはいえ、ヨコの関係が大事なのは知っているけど、実際にはタテの関係で生きている人が多いのが事実。つまり、「知っている」と「できる」、そして「できる」と「やっている」とは、雲泥の差があるということなのです。
自分の中で「タテの関係」を築いていないか?
三浦さん:
「ヨコの関係」で生きるためには、自分の内面を変えていくことが大切です。
自分の心の中にふたりの人間がいることを想像してください。そのふたりが、人生でうまく行かないことがあった時に、どんな会話をするか考えてみましょう。「なぜ、俺はこんなこともできないんだろう…。どうせ、自分なんて才能はないんだ」と、落ち込む自分に対し、もうひとりの自分は何と声をかけるでしょうか。
「なぜ、こんなこともできないんだ!」「もっと、しっかりやれ!」とダメ出しをして、そのふたりがタテの関係で接している限りは、タテの関係の世界から抜けることは難しいでしょう。自分自身がタテの関係を生きている人は、他人に対してもタテの関係で接してしまいます。
一方、「大丈夫、これも成功するための過程なんだ」「やり続けてごらん。きっと、できるか」と、失敗した自分を励まし、承認する言葉をかけている人は、自分の中で「ヨコの関係」が築けている人です。自分に対して信頼できる人は、他人に対しても信頼することができます。
加えて、自分を励ますことのできる人は、挑戦し続けることができる。成功者の条件って、失敗しても、継続してチャレンジをやりきる力があることです。コーチングをやり続けて、数多くの成功者と会っていますが、共通点はこれなんです。成功者の方が、失敗を数多く経験しているんです。
自分の中で「タテの関係」を築いてはいけません。自分の内面を変えていくことで、他人とも「ヨコの関係」で接することができます。
大切なのは自分に完璧を求めないこと
三浦さん:
最後に、自分の心の中で起きている会話に気づくためにオススメしたい習慣が、「日記を書く」ことです。
今日起きたことに対して、自分がどう感じたのかを書き出してみてください。心の中の会話が浮き彫りになるはずです。振り返りをすることで、はじめて気づくことは多いんです。
これを繰り返すと、気づく速度が上がっていきます。次第に、メンバーと会話をする時に、「この態度はよくないな…」と、普段の生活の中で気づけるようになっていきます。そして、自分に聞いてみる。「このままタテの関係でいく?」と。
大切なのは自分に完璧を求めないことです。完璧を求め出すと、「なんで、これができないんだ!」と自分の中の関係が縦になってしまいますので。
いきなり人は変わることはできません。自分の心の中で起こる会話を意識し、振り返りながら、少しずつ自分を変えていってもらえたらと思います。
〈文=井手桂司(@kei4ide)、写真=狐塚 勇介〉
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