「良い会社をつくることは、会社のビジネスにも効くんです」—— そう語るのは、今年8月に『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』を上梓した、合同会社Almoha共同創業者の唐澤俊輔さんです。

唐澤さんは2005年に日本マクドナルドに新卒入社し、史上最年少の28歳で部長職に就いた後、経営再建中だった同社のV字回復に貢献。その後メルカリ、SHOWROOMなどの成長するスタートアップで組織づくりをしてきました。合同会社AlmohaのCOOとして、世の中に「良い会社」を増やすべく、奮闘しています。

今回の朝渋では、8月に出版した『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』をもとに、「良い組織づくり」のハウツーを解説していただきました。

ファシリテーターは、朝渋には1年半ぶりの登場となる西村創一朗。奇しくも唐澤さんと出身地が同じだそうで、打ち解けた雰囲気でイベントが始まりました。

 

【唐澤俊輔さん】合同会社Almoha共同創業者

大学卒業後、日本マクドナルド株式会社に入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、社内の組織変革や、マーケティングによる売上獲得に貢献、全社のV字回復を果たす。その後、株式会社メルカリに身を移し、執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長。採用・育成・制度設計・労務といった人事全般からカルチャーの浸透といった、人事・組織の責任者を務め、組織の急成長やグローバル化を推進。その後、SHOWROOM株式会社でCOO(最高執行責任者)として、事業成長を牽引すると共に、コーポレート基盤を確立するなど、事業と組織の成長を推進。

現在は、Almoha LLCを共同創業し、人・組織を支援するサービス・ツールの開発を進めつつ、スタートアップ企業を中心に組織開発やカルチャー醸成の支援に取り組む。

グロービス経営大学院 客員准教授。

著書『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』

 

入社後のモチベーションを左右する「期待値ギャップ」

唐澤:本の中身をご説明する前に、そもそもなぜこの本を上梓するに至ったのかについてお話しましょう。その背景には、私が以前から持っていた「組織づくり」に対する課題感があります。

というのも、世の中には「人を大切にする」と謳っている会社はたくさんあるはずなのに、実際には良い人材が入ってもすぐに辞めてしまったり、不満を抱えながら働いていたりします。それも、就職人気ランキングで上位に入るような企業ですら起きている。私は「この現状をなんとかしたい」と昔から思っていました。

この現象が起こる原因は、「期待値ギャップ」だと考えています。たとえば人事の方が「成果主義のプロフェッショナルな会社です」と説明している企業に、採用候補者AさんとBさんが志望したとします。このとき、Aさんは「ビシバシ鍛えられて成長できそう」と思っても、Bさんは「しっかり育成してもらえそう」と感じる可能性があるのです。こうしたズレから期待値に違いが生じ、入社後に自ら貪欲に成長するAさんと、育成の環境不足に不満を持つBさん、というようにその後に大きな差を生む可能性があります。

この「期待値ギャップ」を埋めるために大切なことは、会社ごとに異なるカルチャーを可視化し、言語化していくこと。『カルチャーモデル 最高の組織文化の作り方』は、みなさんにそのためのヒントを提供できればと思い、今まで毛色の異なる複数の企業で働いてきた経験を活かして私なりにまとめた本です。まずは、同書の内容をダイジェスト版でお送りします。

カルチャーは良くも悪くもなる諸刃の剣

唐澤:まずお伝えしたいのが、カルチャーの重要性。たまに「いくら良い組織をつくっても、事業が伸びなければ会社としての意味がない」という意見が出ることがあります。この考え方は間違ってはいないのですが、カルチャーを大切にすることは、ビジネスにもきちんと効いてくると私は考えています。

というのも、組織内でカルチャーが擦りあっていると、物事の前提となる議論を省略できるので、意思決定のスピードが圧倒的に速くなるんです。それに、カルチャーは「規則」ではなく、もっと緩い概念で自ら考え解釈する余白があります。その結果、従業員一人一人が自分で考えて行動する癖がつき、個人のレベルを底上げする効果もあります。NetflixやGAFAなど世界的な成功を収めている企業に目を向けても、独特のカルチャーが根付いていますよね。

ただ、カルチャーはそれだけ大きな力を持つ分、弱点も持つ諸刃の剣です。いつの間にか悪いカルチャーが浸透してしまうこともあるので、しっかりと意図を持ってつくることが大切です。

 

「カルチャーモデル」とは?

唐澤:カルチャーの重要性をご理解いただけたところで、「カルチャーはどのようにつくられているのか」についてお話しましょう。下の図のように、上から順にビジョン、ミッション、バリューと置いている組織もあれば、ミッション、ビジョン、バリューと置いている組織もある。これはどちらでもいいですが、インプットとしての設計図から日々の行動や言動がつくられ、アウトプットとしてカルチャーができあがっていくイメージを持っておくといいです。

もっと簡単にいえば、ビジネスは「組織」と「事業」の両輪によってつくられていくということ。設計されたカルチャーモデルは、人材マネジメントを行う中で現場のマネージャー中心に実行され、浸透していきます。その結果従業員の体験価値が上がり、それがお客様側にも伝わり顧客体験の価値を上げていく。その意味で、組織カルチャーのインプットが、事業という形でアウトプットに変わるのです。

具体的なカルチャーモデルの中身を示した図は、こちら。マッキンゼーの「7S」を参考にしています。マッキンゼーの7Sでトップにある「ストラテジー」は事業の中で検討すべきものなので、ここでは代わりに「スタンス」を置き、「バリュー」を中心に据えているのが特徴です。

 

カルチャー設計のハウツー

唐澤:さて、次はカルチャー設計の方法についてご紹介します。

①カルチャーの方向性を決める

唐澤:まずはカルチャーの方向性を分類するため、「中央集権型か分散型か」「変化志向か安定志向か」の2軸を元にした4象限を表す図で整理しています。この4象限の中からどれを選択するかでを組み合わせたものが、カルチャーの方向性が決まります大枠となります。どれが良い、悪いといった話はありませんが、ここで決めたスタンスがカルチャーの方向性を決定し7S全てに影響してきます。

 

②カルチャーの言語化

唐澤:方向性が決まれば、次はカルチャーの言語化です。具体例として、私が以前勤めていたマクドナルドを挙げています。私がマクドナルドで社長室長として勤めていた頃は、トップダウン型のカルチャーをボトムアップ型に変える変革期にありました。4象限でいうと、「カリスマリーダー経営」から、「複数リーダー経営」へと変革している最中でした。

当時、組織作りとして展開していた施策を7Sで整理した図が以下の通りです。

『カルチャーモデル 最高の組織文化の作り方』には、その他の事例も入っているので、ご興味ある方は著書にてご確認ください。


③カルチャーの浸透

唐澤:最後に「カルチャーの浸透」に関して、フィリップ・コトラーという世界的なマーケティングの大家が唱えられている枠組みを借りて説明します。コトラーは、マーケティングにおいて商品が消費者の手元に届くまでの流れを「Aware」から始まる「5A」で表しています。これを応用したものが、組織づくりにおける5Aです。

Aware…設計したカルチャーに基づくその会社らしさを、オフィスなど身近なところに反映してみる。

Appeal…従業員がその会社のカルチャーを感じるタッチポイントを、そこかしこに設ける。

Ask…求職者や従業員が、さまざまな情報を自ら調べられる状態にする。オウンドメディアリクルーティングがその一例。

Act…従業員が実際に行動を起こしやすい環境をつくる。「どのような行動がカルチャーを体現しているか」を知るためには、たとえば社内表彰制度が有効。

Advocate…従業員が自社のカルチャーを外に広めていきたくなる仕組みをつくる。リファラル採用がその一例。

以上が、カルチャー設計の方法です。

朝渋に参加されている皆さんの中には「良い会社で働きたい」「良い会社をつくりたい」という気持ちが強い方も多いのではないかと思います。その願望を実現するためには、一人ひとりが行動を起こしていくしかありません。今日の私の話で、みなさんのアクションの後押しができれば嬉しいです。

 

転職を成功させる「郷に入っては郷に従え」のルール

『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』についてご紹介いただいた後は、ファシリテーター・西村とのトークセッションです。

西村:先ほどカルチャーの方向性を形作る4象限のお話がありましたが、自分の会社や転職先の会社がどのようなスタンスをとっているかを判断する方法はあるのでしょうか。

唐澤:全ての会社が4象限に綺麗に当てはまっているわけではないので、無理に分類して考える必要もないと思います。それに、カルチャーはフワッとした空気のようなものなので、組織の内部にいると感じづらい。転職をしたタイミングや、他社の社員と情報交換を経て初めて気づくことも多いです。

その際のアドバイスをしておくと、転職後にカルチャーを前の職場と比べるのはご法度です。中途採用された方によくあるのが「前の職場はこうだったのに」と、新しい職場のカルチャーを批判してしまうケース。カルチャーに悪い部分があるとしたら、その裏には必ず良い部分もあるので、まずはその会社のカルチャーの良い部分に目を向けることが大切です。僕自身も、マクドナルドからメルカリに転職した際、マクドナルドの話は持ち出さないようにしていました。

 

上司の“後出しジャンケン”に要注意

西村:今日は「カルチャーをいかに設計するか」に主軸を置いてお話しいただきましたが、なかには掲げている行動指針と実際の行動との間で整合性がとれていない企業もありますよね。この場合はどうすればいいのでしょうか。

唐澤:バリューは大きな力を持っているからこそ、形だけのバリューは罪深いですよね…。バリューやカルチャーを浸透させるには、上に立つものが正しく理解し実践しないと、一人ひとりが深く理解して体現できるようにはなりません。

特によくあるのが、上に立つ者が都合の良いときだけバリューを引き合いに出してくるパターン。たとえばバリューの中に「スピード重視」の項目なんて無いのに、仕事が終わった後に「スピードが遅い」と言われたり。当然言われた側は「そんな評価軸は聞いていない」と不満を感じますから、そこから亀裂が生まれます。上に立つ者は、簡単に“後出しジャンケン”できる立場にあるからこそ、絶対にやってはいけません。

西村:バリューは絶対的価値観として強い力を持っているからこそ、上の立場の人こそ扱いに気をつけたいですね。

 

トークセッションでは、このほかにも「採用とカルチャー」「いい会社の選び方」「カルチャーV字回復例」「質疑応答」といったトピックでお話いただきました。イベント全編は朝渋にて公開中です!

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