ビジネスシーンでは自分の直感よりも、周囲を納得させる論理性を求められることが多いはず。しかしこれからの時代、「論理よりも感性を大切にする人が生き残る」そう断言するのが今回のゲスト、山口周さんです。

データ分析が導く答えよりも、自分の好き嫌いに従ったモノづくりをした企業が生き残る理由、そしてその背景にある、価値のパラダイムシフトとは?
 

 

新刊『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』の内容をもとに、新時代に生き残る企業・個人の在り方についてお話を聞きしました。

 

【山口 周(やまぐち・しゅう)】1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。現在、同社のシニア・クライアント・パートナー。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。株式会社モバイルファクトリー社外取締役。一橋大学経営管理研究科非常勤講師。『外資系コンサルが教える 読書を仕事につなげる技術』(KADOKAWA)、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?─経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社新書)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』(ダイヤモンド社)など、著書多数。神奈川県葉山町に在住。

 

論理性で生き残れる時代は終わる

山口さん:
ここ20年くらいは、クリエティカル思考や論理思考といった、正しいことを理性に基づいて判断するスキルが重宝されていました。職業でいうと、コンサルタントや弁護士などがそうですね。理性による意思決定が、ビジネスにおいて強い力を持つ時代が続いていました。

会議の場においても、「理性」が「感性」に勝つことが多いことを、皆さんも実感しているのではないでしょうか。「僕の直感だとこっち」よりも、「昨年のデータによると」という発言の方が、まわりを説得する力がありますよね。理性は組織の中でも評価を受けやすいため、論理性を求められる職業は、給料が高い傾向にありました。

しかしこれからの時代は、こうした論理的・理性的な意志決定スキルだけでは生き残れなくなります。感受性・情緒的な意志決定こそ、新時代を生き抜くために大切なスキルなのです。そのことを書いたのが『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』です。

なぜ、理性が感性に負けるのか?

山口さん:
「理性」が「感性」に負けると聞いても、ピンとこない人が多いかもしれません。具体例をご紹介しましょう。

『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』P.96より抜粋

 

たとえば、2007年の携帯電話のデザイン。並べてみると、ほとんど見分けがつかないデザインばかりなんですね。なぜ、こういうことが起きるのか。それはどのメーカーも、同じ消費者から聞いた統計データを機能に反映させて、次々に新機種を発表していたからです。そこに差別化は生まれないのは当然です。これが、データから導き出す「正解」に価値がなくなった状態です。

一方、市場調査もせず、自分たちがステキだと思うものを「感性」に基づいて判断し、生まれたのがiphoneです。皆さんご存知のとおり、競合他社はボロ負けしてしまいましたよね。

また、10年で1,000%成長を遂げた「バルミューダ」も良い例です。代表が設けているプロダクト作りの基準は「俺がほしいか、ほしくないか」だけ。まさに、自分がほしいものだけを作って売るビジネスを実践しています。

顧客の声を聞いてデータで意思決定している会社よりも、自分の好みや感性からモノを作っている企業が、プレゼンスを出して高収益でうまく行っている。「理性」から「感性」へのパラダイムシフトを、こうした企業の成長からも、見て取ることができます。

役に立つ「機能」よりも個人の「意味」が重視される

山口さん:
こうしたパラダイムシフトを背景に、これから何が起こるのか。それは「役に立つ」ものより「役に立たない」ものが高く売れる、マーケットチェンジです。

戦後の昭和的価値観では、豊かさの基準は「モノ」におかれていました。モノ自体に、希少性があったからです。企業は他社よりも役に立つものを作れば売り上げを伸ばすことができました。

しかし今はどうでしょう。私たちの周りには「役立つもの」が溢れています。また家電のように、役立つものは1つあれば、2つ目を買う人はほとんどいないため、企業は常に競合他者との熾烈な競争を続けなければなりません。そしてその競争の多くは、「機能」のマーケットで行われます。

「役に立つ」を追求しすぎて「役に立たなくなる」という(笑)、本末転倒な進化を遂げるものも。身近なものでたとえると、リモコンのボタンがそうです。チャンネルや音量、主に使うボタンは数種類なのに、ボタンが60個以上もある。企業は価格維持のために不要な機能を増やすけど、消費者にとってそれはもう、ベネフィットでは無いんですね。

一方で、音楽やアート、ワインなどは多様性があり、それぞれに自分なりの「意味」や「情緒」を見出して楽しむものです。こうしたモノには、機能を超えた価値があるため、高価格帯でのビジネスが展開できます。たとえば、エアコンと暖炉を考えてみてください。エアコンの方が暖房効率は高く、暖炉よりも安価です。それでも、あの情緒や暖炉のある暮らしの「意味」に、価値を見出す人が多く存在しています。

このように、これからの時代は、人の感性や思考の多様性に応える商品が求めるられるわけです。機能のマーケットを捨て、意味のマーケットにシフトできた企業が生き残っていくでしょう。事実、海外ではコンサルティング会社他によるデザイン会社の買収の動きが強まっています。日本では「星のリゾート」が、既存の施設を買い上げ、「意味」や「アート」を盛り込んでバリューアップさせています。これも、意味や情緒によって価値が高まる、良い例かもしれません。

時間泥棒に気をつけろ!

山口さん:
最後にもう1つ。新時代、世の中で貴重な資源となるものについてお話しして終わりたいと思います。みなさん、なんだかわかりますか?

正解は「時間」です。Facebookの時価総額は数十兆円ですが、その価値はユーザーがFacebookを見ている間につかっている「時間」にあります。自分の時間を何かに使うということは、その富が相手にうつるということなんですよ。この意識は、とても大切です。

僕は10年前から、早起きを続けています。昔はテレビをぼーっと見ていて、時間があっという間に過ぎていくこともありました。でも、こんな風に気づかぬうちに時間を奪われているもの、いわば「時間泥棒」には気をつけなければいけません。

今日からできることがあるとするならば、読書など、使った時間で自分に富が返ってくるような時間の使い方を意識すること。自分への投資となるような時間の使い方はなんなのか、ぜひ考えてみてくださいね。

 

〈文=中村朝紗子(@monichild)、写真=矢野拓実(@takumiYANO_)〉

 

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