約500万部の大ベストセラー『五体不満足』の出版から20年。

著者と語る朝渋では、2018年10月11日発売の小説『車輪の上』で再始動した乙武洋匡さん(以下、乙武さん)に、現在の乙武さんの活動と著書について、話をお伺いしました。

モデレーターは朝渋代表の「5時こーじ」こと井上(@kojijico。今回は、そのダイジェストをお届けします!

乙武 洋匡さんのプロフィール

乙武洋匡(おとたけ ひろただ)さん(@h_ototake

1976年4月6日生まれ。大学在学中に出版した『五体不満足』がベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、教育に強い関心を抱き、新宿区教育委員会非常勤職員「子どもの生き方パートナー」、杉並区立杉並第四小学校教諭を経て、2013年2月には東京都教育委員に就任。教員時代の経験をもとに書いた初の小説『だいじょうぶ3組』は映画化され、自身も出演。続編小説『ありがとう3組』も刊行された。おもな著書に『だから、僕は学校へ行く!』、『オトことば。』、『オトタケ先生の3つの授業』など。2014年4月には、地域密着を目指すゴミ拾いNPO「グリーンバード新宿」を立ち上げ、代表に就任する。2015年4月より政策研究大学院大学の修士課程にて公共政策を学ぶ。

どんな境遇でも「選択肢」や「チャンス」を平等に

乙武さん:えーっと。まぁ、色々ありまして(笑)。当時は家に引きこもっていたんですが、そのときに「引きこもり続けていても、人生もったいないな。」と考えました。そこで、2017年は1年間、海外37か国をずっと放浪していました。

そこから今年の4月に帰国して、この『車輪の上』を書きはじめたんです。

今回の著書は、2010年に出版し映画化された小説『だいじょうぶ3組』、2011年出版の続編小説『ありがとう3組』に次ぐ小説になります。

井上:『五体不満足』の出版から、教員、ライター、NPO、大学院と様々なチャレンジをされていますよね?どのような「軸」を持って、次のステージを選択しているんですか?

乙武さん本当にいろんなことをチャレンジさせていただいています。じつは、都内で保育園3園、こども園2園の経営に携わっていたり。

僕は両手両足のないこの体に生まれてきましたけど、別に自分で選んだわけじゃない。でも、たまたま両親・友人・学校の先生に恵まれたおかげでこの体でもそれなりに楽しく生きてきたし、ご飯も食べられているわけです。

ただね、普通、この体で生まれたらちょっと人生しんどいと思うんです。僕だけじゃない。例えばLGBTや、生まれた家庭がとても貧しいなど、他の方と大きく異なる境遇、いわゆる「マイノリティー」と言われるだけで、人生のハードルが急に上がるわけですよ。

マジョリティの方々と比べたとき、「人生を豊かにするために求められる努力量」がより大きなものとなる。もちろん個人差はありますが、平均値として考えたとき、明らかにハードルが高いんですね。

「それって健全なのかな?」と考えたときにやはり健全ではないなと。

僕は、「どんな境遇に生まれても、与えられる選択肢やチャンスの数が平等になる社会にしたい」と思っているので、それに繋がることは何でもやります。

本を書く、講演会をやる、テレビに出る。ゴミ拾いくらいだってするし、保育園を経営にも携わる。これまでも、本当にいろんなことをしてきました。

小説『車輪の上』は「ダイバーシティ入門編」

井上:今回の『車輪の上』を執筆したきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?

乙武さん:僕は『五体不満足』を書いたことがきっかけで世に出た人間なので、もう1度本を書こうと思いました。正直なところ「自分に喝を入れる」という意味もあったように思います。

小説という形式にしたのも、2年半前の騒動があったので「乙武が言っていること」「乙武が考えていること」を書く本にすると、読まれにくいかもしれないなと思ったからです。

現実とは少し離れた「虚構の世界」である小説にしたほうが、読むハードルが下がるかもしれないなと考えました。

井上:ホストを題材にした小説ですが、出版後の反響はいかがですか?

乙武さん:意外な感想をいただいておもしろかったのが、人事をお仕事をされている方が「これ、人事の人たちに読んでほしい」って言っていたんです。「ダイバーシティの入門編の本だと思った」と。

『車輪の上』には、主人公・シゲノブという車椅子ホストだけでなく、いろんなマイノリティー性を持った登場人物が出てくるので、「マイノリティーの見本市」のようなところもあるんです。「ああ、こういった特性を持った人もいるんだぁ。」と思っていただけるような。

「マイノリティー性のある方々を迎え入れ、既存の社員とハレーションなく一緒に仕事をしてもらうためには一体どうしたらいいだろうと悩んでいる人事担当者にこそ読んでほしい。」ーーそんな感想をいただきました。

『車輪の上』の題材に「ホスト」を選んだ理由

井上:なぜ『車輪の上』の主人公を「ホスト」という設定にしたんでしょうか?

乙武さんまず、僕の親友がホストクラブのオーナーなんです。で、20代後半の頃に彼のお店によく飲みに行ってたんですけど、実際に働いているホスト君たちの話を聞いていると、えげつない境遇の人がたくさんいるわけですね。

「お父さんが4人いました」とか、「小学生の頃から万引きをしないと生きていけませんでした」とか、当時の僕には衝撃的な境遇の人たちで。それでも彼らは、その境遇を受け入れたり、抗ったりしながらも生きていくしかないんです。

「”レッテル”ってしんどい。けど、それでも生きていくしかない。」

このことをテーマに小説を書こうと思ったときに、ホストクラブで働く彼らが真っ先に頭に浮かびました。

「青年がみずからの境遇に戸惑いながらも自分なりの生き方を模索する」という物語を描くには、ホストクラブという舞台が最も適していると思ったんです。

井上:小説の中に登場するホストたちが、車椅子ホストである主人公・シゲノブに厳しい言葉をかけるシーンが描かれています。この辺りには、乙武さんの「障害を言い訳にしない」「世間を気にしない自分の生き方」などの考え方が反映されているのでしょうか?

乙武さん「その差って何なんだろう?」と考えるところはありますね。僕が騒動を起こしたときは世間のみなさまからフルスイングで叩かれましたけど、そういう意味ではすごくフラットだったというか、画期的だったかなと思っています。

なので、「あ、俺って周りに気を遣われて生きてきたんだ」と気付きながら成長していく主人公・シゲノブのストーリーも感じていただけたらなと。

「レッテルに縛られる生き方」へのメッセージ

井上主人公・シゲノブと付き合う女子大学生のアヤは「シゲノブくんといると自分の殻を破る勇気がもらえるから」と言っていますね。「私なんか…」「変わるのが怖い」という人も多くいる中で、乙武さんが考えることが何かあったのでしょうか?

乙武さんアヤは、今回の物語において、もしかしたら主人公以上に重要かもしれないキャラクターなんです。「障害者」や「LGBT」というと、どうしても特殊な存在だと思われてしまいがち。だから、キャラクターの中に「自分にもこんなところあるかも」と思ってもらえるような存在が必要だったんです。それがアヤ。

アヤは、いわゆる「普通の人」です。周りからも「良い子ちゃん」と思われているし、アヤ自身も「そう振る舞わないといけない」という思いに縛られている。

その、アヤが変わろうとすると、どういったハレーションが起きるのかという部分にも注目していただきたいです。

井上:あと、主人公・シゲノブの母親の言葉「そういうレッテルに縛られる生き方は、もうやめにしましょうよ。」が印象的だったのですが、どんな心情だったんですか?

乙武さん:母親のそのセリフは、僕が『車輪の上』で描きたかったテーマそのものです。

とはいえ、やっぱり僕たちは他人を評価する際にすぐカテゴライズしてしまうし、簡単にレッテルを貼ってしまう。

例えば、ホストは「女を騙して金を巻き上げている」とレッテルを貼られ苦しんでいる。ところが、「AV女優だったら、すぐにやらせてくれるんでしょ?」などと、彼らだって他の職業にはレッテルを貼ってしまう。

人間とは、そういう生き方をしているものなんですよ。

それも性(さが)というか本能だとは思うんですけど、その上で「ああ、いかんいかん。」とどれだけ気付き、修正していけるか。「あれ、それでいいんだっけ?」とか「例外もあるよな」と立ち止まって考えていくことができるか。それが『車輪の上』に込めた本当のテーマなんです。

井上:最後に、『車輪の上』でいうアヤのように、「得意なこと」や「尖ったもの」がないと悩む人が、一歩踏み出すためのヒントを何かいただけたら嬉しいです。

乙武さん:無理に変わらなくてもいいと思いますよ。「個性や自分らしさが見つからなくて悩んでいます。」と言う人もいますけど、僕は「無個性な人なんています!?」と思っています。性格、生い立ち、育ってきた環境も人それぞれですから。

でも、日本の文化だと「意見を言うと嫌われるんじゃないか」などと考える人も多いですよね。確かに、急に自我を出し始めたらハレーションが起きますが、出し切っちゃったら楽だと思いますよ(笑)。

井上:はい(笑)。乙武さん、今日は貴重なお話をありがとうございました!

以上、『車輪の上』の著者、乙武洋匡さんをゲストに迎えた「著書と語る朝渋」のレポートをお届けしました。

「個の時代」と言われる現代だからこそ、より向き合う機会の増えた「マイノリティー性」や「レッテル」。乙武さんが出した今回の小説『車輪の上』は、読むと改めて自身の価値観を振り返られる1冊なので、是非チェックしてみてくださいね!

乙武さん、朝早くからありがとうございました!

Text by 須崎千春(@chih_suz
Photo by 狐塚勇介(@koz_fox

 

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★参考記事:
「早起きすれば“自分の軸”で生きられる。5時こーじが語る「朝活の魅力」が想像以上だった」(新R25)
「スタートアップのCEOこそ、朝5時に起きるべき。」渋谷発の朝活コミュニティ「朝渋」プロデューサー、井上皓史さん (HARES.jp)

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