デザイン思考(Design Thinking)という言葉をご存じでしょうか?

「誰も思い浮かばなかった優れた答えを導き出す」思考のメソッドとして有名で、AppleやGoogleなど、世界を先導する企業がイノベーションを創出するために取り入れている考え方です。

このデザイン思考を日本で有名にしたのが、世界的に有名なデザインコンサルティングファーム『IDEO』の元デザイン・ディレクターであり、書籍『HELLO,DESIGN 日本人とデザイン』の著者である石川俊祐さんです。

石川さんは、デザインについてこう語ります。

「デザインとは絵が上手いことや、センスがいいことではない。デザインとはおもてなしで、暑い日に配達に来た郵便屋さんに氷水を差しだすようなこと。デザイン思考は、人間の欲求に寄り添い、解決する、誰にでも身に付けることができるアプローチです」

朝渋では、石川さんをゲストに招き、デザイン思考について語っていただきました。

<ライター:とにー>


【石川 俊祐(いしかわ・しゅんすけ)】1977年生まれ。ロンドン芸術大学Central St.Martins卒業後、Azumi studio、Panasonic Design Company、PDD Innovation UKのCreative Leadを経て、IDEO Tokyoの立ち上げに従事。Design Directorとして数々のイノベーションプロジェクトに携わる。2017年に田中雅人とともにAnyProjectsを設立。プロダクト、サービス、空間、メディア、ビジネスから教育や働き方のデザインまで、分野を超えて、未来の価値創出プロジェクトに携わる。イギリスD&ADやGOOD DESIGN AWARD 審査委員/イシューディレクターなど審査委員を歴任。

すべての人がデザイナーである

石川さん:
10年くらいデザインの仕事をするなかで、「すべての人がデザイナーである」と考えるようになりました。

僕はもともとデザイナーじゃないんですね。はじめはPanasonicの工業デザイナーで、物のデザインをしていました。そのあと、IDEOでデザイン思考について取り組みました。IDEOやBCG(ボストンコンサルティンググループ)Design Venturesなど、色んなところで仕事をしていくうちに、「みんなデザイナーだよね」と思うようになったんです。

デザインとは本来、”人間の欲求に寄り添い、解決する、誰にでもできる考え方”のことを指します。

この本質的なデザイン思考って、実は日本人がとても得意なんです。なのに、「なんで海外の会社から日本人は教わらないといけないんだろう」ってずっと疑問に思っていました。それが、この本を書くきっかけになりました。

そして、これがデザイン思考の考えを表した図(下図)です。

石川さん:
まずデザイン思考(Design Thinking)があって、次に人(People)がいます。その先に、それを実現するためのテクノロジー(Technology)と、それを持続するためのビジネス(Business)があるんです。

よく企業で起こりがちなのは、ビジネスとテクノロジーばかりを見すぎてしまうことです。人のことを見ないで、店舗とか数字だけを見ていると、競争力が落ちていきます。そこは一回立ち返って、ちゃんと人を見なきゃいけません。どんなものも、人を軸において設計することが大切です。

デザインと一言で言っても、その先にあるものは車やホテルのおもてなしなど、戦略、体験、サービスなども含まれます。僕はこれまで、物理的なモノの見た目だけではなく、使い手の体験・サービスからビジネスの創出まで、幅広く多様な分野においてデザインをしてきました。

根本的な問いを立てることから始めよう

石川さん:
デザインについて考えるとき、「そもそも、これって必要だっけ?」「そもそも何?」という問いを立てることから始めます。そうすると、ちょっと俯瞰して見れるんです。

Panasonic時代、僕がビジュアルデザインを担当したオーディオがあります。その製品は音質を追求しました。でも、「音質にこだわってゆっくり音楽を聞く人はいるのだろうか」「みんな忙しいだろう」と心のどこかでモヤモヤを抱えていたんです。図でいうと、ビジネスとテクノロジーの間ばかりを見ていました。

その直後、AppleからiTunesが出たんです。そのとき、「”人”が求めていたのって、音楽の質じゃなくて、音楽の量を探求することだったんだ」と気づきました。人々は忙しくても、いつでもどこでも多くの曲が聞けることを求めていたんですね。

石川さん:
僕が今いる『Any』では、エモーショナルな右脳の部分も取り入れて、「誰のため?」「何のために?」と考えて、根本的な問いを立てていきます。

例えば、オフィスのデザインを頼まれたとき、僕たちは「そもそもどう働くの?」「オフィスの役割ってなんだっけ?」「幸せって何?」の部分から立ち返ります。

このような根本的な問いは、業界や職種などあらゆる境界を超えて必要だと思います。

主観の問いを発見することで、意志が生まれる

石川さん:
根本的な問いを立てたら、次に「なんでするのか」「どうしてそうなりたいのか」の問いをつくっていきます。ここでは、意識的に拡散と収束をくり返していきます。

例えば、以前に製菓会社からの依頼で「チョコレートの新しいパッケージを考えてほしい」と依頼されましたが、「そもそも、なぜパッケージを新しくしたいのかを考えて欲しい」と返しました。

その理由を拡散して考えると、「チョコレートを食べない男性に魅力を伝えたい」とか「カカオのよさを伝えたい」という主観が先方から出てきたんですね。

最終的に、それらを収束させて「チョコレートを食する文化・ライフスタイルを日本に馴染ませたい」という主観的な問いに落ち着きました。結果、パッケージの開発にとどまらずに、社内でチョコレートを食する体験を考えるチームが立ち上がり活動につながりました

このように、「なぜ、自分がそれをやりたいのか?」という、自分の意思の探求をくり返すことで、問いが意志に変わっていきます

だからこそ、主観の問いを見つけるまで、拡散と収束をくり返すことが大切なんですね。

僕らは、プロジェクトを通じて、意思のある人を生み出して、イノベーションを創出したいんです。

自由になれる場と空気をデザインすることの重要性

石川さん:
更に、デザイン思考はプロジェクトメンバー同士のコラボレーションが重要です。

コラボレーションにおいて大事なことは、自由になれる場と空気をデザインすることですね。プロジェクトチームには社長から入社3年目の人までいることもあるんですが、それぞれ個人が自由にコミュニケーションできるよう意識しています。

まずは自由に発言してもらい、アイデアを拡散させます。何を言っても褒めるんです。それを収束していくことで、物事は自分ごとになっていきます。

人間は、失敗と間違いからしか学ぶことはできないので、どうやって安心して失敗できる環境をつくるかが鍵ですね。みんなが自由になれる環境、雰囲気をデザインするんです。羊飼いが、羊たちを後ろから導いてくイメージに近いですね。

また、プロジェクトを始める時に大切なのが、キックオフをする前に、チームで「チームアグリーメント」という決まりごとをつくることですね。

「子どもがいるんで5時に帰りたいです」というメンバーがいたら、「では8時から始めて5時までには帰れるようにしよう」とか、チームのルールを作ります。

他にも、「自分をよく見せようとすることはやめよう」とか、「そのサービスの成功のためなら、どんな発言もしてもいい」など、チームの決まりを皆でつくっていくんです。

自分たちが自由に働ける場づくりをすると、イノベーションがうまくいく確率が上がりますよ。

デザインとは、人の心を察する力

石川さん:
Adobeの調査で、東京、NY、ロンドンの「どの都市がクリエイティブか?」という統計を取ったんですが、海外の人は「東京が一番クリエイティブだ」と答えていました。

デザイン思考ってプロセスじゃなくて、人の心を読み解き、察する力のことを指します。クリエイティブであることは、感じる力があるってことなんです。

相手を思いやる、空気を読む。おもてなしという言葉にも表れるように、日本人は読み解く力を強く持っています。なのに、それを解き放つ環境があまりないんですね。

デザイン思考の一番のハードルって、環境なんですよね。いい環境をつくれるかどうか

自分なりに環境をつくれる立場にいるのであれば、「このチームはチームアグリーメントで決めたルールで仕事する」など、小さなチームで小さく始めてみてください。

また、今からすぐにできるのは仲間を作ることです。社内でも社外でも、チームや仲間を作っていってほしいですね。

デザイン思考を持つことで、イノベーションを起こすことはできます。ぜひやってみてください。

〈文=とにー(鳥井美沙)(@tony1021_) 写真=矢野拓実(@takumiYANO_)〉

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