30歳を超えてから料理の道へ進み、今やあらゆるメディアで「飲食店業界の革命児」と呼ばれているシェフがいます。東京・代々木上原の人気店「sio」のオーナーシェフ、鳥羽周作さん。

ディナーコースは2万円と、決して安くはない値段なのに、つねに満席状態。訪れた人は、料理の素晴らしさ以上の「特別な感動」を覚えたことを、SNSで発信しています。

「感動を生むためには、自分たちのスタイルを表明し、徹底して実践していくことが大事。誰かを妬んだり、否定する暇があるなら、自分のスタイルを磨くことに専念したほうがいい」

鳥羽さんは、自身の信条をこう言います。朝渋では、「自分のスタイルを表明し、追求することの大切さ」を、鳥羽さんに語っていただきました。

〈文=井手桂司(@kei4ide)、写真=狐塚 勇介〉

【鳥羽 周作(とば・しゅうさく)】1978年生まれ、埼玉県出身。サッカー選手、小学校の教員を経て、32歳で料理人の世界へ飛び込む。都内の超有名レストラン2店舗で計5年間の修行を積み、恵比寿のレストランでスーシェフを2年務める。その後、2016年3月より代々木上原「Gris」のシェフに就任。2018年7月、同店のオーナーシェフとして、「sio」をオープン

 

「また行きたい」と純粋に思える場所を目指す。

ーー はじめに、ただの「おいしい」ではなく感動するレストランを目指す理由から、お話いただけますか?

鳥羽さん:
やっぱり、「おいしい」って数値化できるものでもないし、人それぞれじゃないですか。

例えば、お母さんが甘い卵焼きを作ってくれる家で育ったら、甘い卵焼きが好きになりますよね。でも、しょっぱい卵焼きを作ってくれる家だったら、しょっぱい方が好きになるかもしれない。

「おいしい」だけで、お客様に満足してもらうのは、実はすごく難しいんですよ。

じゃあ、レストランが提供する価値って何だろうと考えると、もともとレストランの語源は「Rest(休憩する)」みたいな意味からきていて、お客様が日々の生活の中で「行ってよかった」と感じられる場を提供することなんですよね。

だから、お客様が「また行きたい」と純粋に思える場所を目指そうと決めました。それが、「感動を目指す」ということです。

そして、大切なのは、「こういう体験をつくったら、お客さんはこう感動するだろう」と僕らが考え抜くこと。いわば、僕らがお客様を導いていく

これは、僕のnote記事「感動した!」と言ってもらえるぼくの料理には、圧倒的な戦略とロジックがあるに詳しく書きましたが、お客様に感動いただくための方程式を磨くことが超大事です。

そのためには、僕ら自身のインプットも重要ですし、お客様が求めているものに対する想像力を働かせることも大事。そして、何より大切なのは「愛」ですよね。絶対にお客様に喜んでもらう。これが僕らが最も大切にしている信条です。

ーー 鳥羽さんは、色々なメディアで、「sioに来たら、絶対感動させます!」とおっしゃるじゃないですか。これって、自分たちにすごくプレッシャーをかけてませんか?

鳥羽さん:
そうですね。自分で自分の首を絞める感覚はあります(笑)。

でも、「プロ」って、圧倒的技術と圧倒的なコンテンツにより、お客様の期待を超え続けられる存在のことだと思うんですよ。

期待されて当たり前なんです。その期待値を、きっちり上回るのが「プロ」。

そのために、普段から血の滲むような努力をして、考えに考え抜いて絞り出したもので、真剣勝負をして勝ち続けていく。

だから、僕は「期待してください」とドンドン言います。「今度、sioに行きます」と言われたら、「どうぞ、期待してください。その代わり、超えちゃえますから」と。そういう気持ちで毎日戦ってます。

誰とも戦わないことで、無敵になる。

ーー 他に鳥羽さんが大切にしている信条は、なんでしょうか?

鳥羽さん:
僕らが大切にしていることに、「誰とも戦わない」というのがあります。

お恥ずかしいんですけど、僕も以前はすごく尖っちゃっていました。「料理業界のこういうところがダメ」とか、「この店の、こういうところは良くない」みたいなことを、平然と言っていた時期があります。だから、敵も多かった(笑)。

でも、僕らのロゴをつくってくれたデザイナーの水野学さんだったり、おしぼりとして使わせてもらっているIKEUCHI ORGANICさんだったり、愛のある人たちと仕事をするようになって、自分の考え方が変わってきたんです。

みなさん、自分のスタイルを大切にしていて、周りが何と言おうと、そのスタイルを貫いている。

その姿が、最高にカッコいいと思いました。また、そうすることで、敵をつくっていない。自分もそうなりたいと、自然と思うようになりました。

ーー なるほど。素晴らしい人たちとの出会いが、鳥羽さんを変えていったんですね。

鳥羽さん:
そうなんです。例えば、水野さんとは、たまたまご縁があって、最初は「名刺を作ってほしい」と冗談で言っていました。すると、それが本当に実現することに。

そして、僕らのロゴを作ってくれた時の、水野さんたちの愛情がすごかったんです!

何千という膨大なパターンのロゴを考えてくれて、「その中から最終的に選んだものはこれです」と紙芝居形式で超わかりやすく説明をいただきました。そんな風にやってもらったら、「僕らのロゴはこれしかない」としか思えないですよ。

僕は本当に感動して、これだけの熱量で僕らのためにやってくれたことを考えると、「僕らも、このロゴに見合う店にならないとダメだ」と心底思いました。

だから、料理だけでなく、お店で扱うおしぼりも、流す音楽も、このロゴに負けない一流のものにしないといけない。そして、水野さんたちに恥じない態度を、僕らもとらないといけないと思うようになりました。

鳥羽さん:
だから、僕らは誰かと比べることは絶対にしません。とにかく、自分たちのスタイルを追求していきます。

例えば、僕はネイビーが好きです。でも、赤が好きな人もいるし、黒が好きな人もいます。そんな時、「赤はダサい」とか「黒はどうなの?」みたいな話はしなくていい。とにかく「その中で、僕はネイビーが好きです」と言うだけでいい。

誰かを否定したり、妬んだりしない。自分たちのスタイルをただただ表明することで、誰も傷つけないし、誰も嫌な思いをしません。

しかも、「あなたたちのスタイルが私も好き」と言ってくれるような人たちが集まってきてくれます。僕らはそういう人たちと、すごく良い関係が築けている。

僕は、41歳になるまで、この事に気がつくことができませんでした。でも、今はスタイルを表明し、誰とも戦わないことの大切さに気づくことができて、本当に良かったと思っています。

やっぱり、何かやりたいことがある時に、人と比べたり、誰かのことを妬むような気持ちがあると、腰が重くなってしまったり、スムーズに物事が進まなくなってしまうことがあると思うんですよ。それより、とことん自分のスタイルを表明していくほうが、今の時代にあっていると思いますね。

全てはゴールにたどり着くための文脈と捉える。

ーー スタイルを追求していく中で、鳥羽さんが特に意識していることはありますか?

鳥羽さん:
いくつかありますが、特に大切なのは「部分的な勝敗を気にしない」ということです。

自分も失敗することなんて沢山あります。でも、それをいちいち気にしません。

例えば、漫画の主人公だって、すごく強い敵が出てきたら、絶対に一回は負けるわけじゃないですか。それで、修行して、再度戦って、最終的には勝つという話ばかりですよね。だから、一回負けたとしても、それは最後に勝つための文脈なんだと捉えれば、どうってことない。

要は、自分を「自分の物語の主人公」として常に捉えられるかどうかです。

ーー 部分的な勝敗を気にしないというのは、周りのメンバーに対しても同様ですか?

鳥羽さん:
同じですね。だから、僕はお店のメンバーがミスをしたとしても、そんなに怒らない。任せると言ったら、めちゃくちゃ任せます。たまに、「そんなに任せてしまって大丈夫なの?」と言われることすらあります。入って半年くらいのメンバーに料理を任せたりしてますからね。

でもそれは、「sioで働くメンバーたちを最高のシェフにする」というゴールへの過程に向けて絶対に必要だと思っているからです。

お客様にお出しする料理である以上、超えないといけないラインまでは絶対にやってもらいますけど、そこから先の上積みの部分に関しては失敗しても良い。仮に失敗したとしても、そのメンバーが最高のシェフに辿り着くまでの文脈と捉えて、任せるようにしています。

ーー なるほど。逆に鳥羽さんがメンバーに積極的に伝えていることはありますか?

鳥羽さん:
僕は、技や知識はそこまで教えていなくて、あくまで基礎的な部分だけなんですよ。それよりも、一番大切に教えているのは「イズム」ですね。

例えば、100年続くお醤油屋さんとかあるじゃないですか。そういうところって、初代の人の「イズム」を後の人たちが脈々と受け継いで、年月を掛けて更に良いものに昇華していってますよね。

僕らは、こういう存在になりたいと思っています。

sioのイズムを継承したシェフたちが育って、そこに彼らのオリジナリティが加わり、全国に良いレストランが沢山できる。

これって、素晴らしいことじゃないですか!そのために、僕はsioのみんなに、料理の作り方ではなくて、イズムを継承していきたいんです。イズムを継承するために、どういうことを僕が考えているのかを、口酸っぱく伝えるようにしています。

自分なりのスタイルを見つけてほしい。

ーー 最後に鳥羽さんたちが、これから目指すビジョンを教えてください。

それは、すごくシンプルで、僕らは「カルチャー」をつくりたいんですよね。

今の料理業界が良いとか、悪いとかではありません。ここはすごく重要で、これまでの料理業界をリスペクトをした上で、新しいシーンをつくっていきたいんです。

そのためには、水野学さんや、IKEUCHI ORGANICさんをはじめ、レストランというプラットフォームを通じて知り合った様々なクリエーターの方たちと「チーム」を作っていく。そして、これまでにない座組みのプロジェクトをどんどんやっていきたいと思います。

レストランって、やっぱり「体感できる場」なんですよ。IKEUCHI ORGANICのタオルがどんなに素晴らしいと口で言っても、使ってもらわないと伝わらない。でも、sioでは、実際に使って体感することができる。

これは、食材や、食器、店で流れる音楽にしても同様です。様々な価値あるものを体感できる場として、レストランほど最強の場所はないんじゃないかと思います。

クリエーターの方々とチームを作って、レストラン業界の新しいカルチャーを作っていきたいし、広げていきたい。

そして、そのためには、やっぱり「自分たちのスタイルを表明していくこと」が大切です。

スタイルを強要するのではなく、僕らのスタイルを「なんかいいなぁ」とか「真似したい」と思ってもらえたらいい。

いつの間にか、そういう風に思ってもらえる人が増えて、気がついたら、日本にsioみたいなレストランが沢山できている。そんな未来を僕らは目指しています。

是非、皆さんも自分なりのスタイルを見つけて、それを大切に育てていって欲しいと思います。

〈文=井手桂司(@kei4ide)、写真=狐塚 勇介〉

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