チームづくりにおいて「心理的安全性」という言葉を耳にする機会が増えています。一人ひとりが恐怖や不安を感じることなく、安心して発言・行動できるチームほど、いい結果を生むことが判明したからです。

とはいえ、職場では、ついつい上司の顔色を伺ってしまうもの…。特に、結果を残してきた上司であればあるほど、間違った発言をしてしまわないかと、メンバーは緊張を感じてしまうのではないでしょうか。

そんな心理を踏まえ、「リーダーたるもの、自らの圧を消す工夫が大切」と言うのは、大ヒットコミックエッセイ『ダーリンは外国人』を担当し、編集長として『レタスクラブ』の売り上げ部数を大幅に伸ばした松田紀子さん。朝渋では、松田さんに、圧消しのための「ゆるふわ戦略」を語ってもらいました。

<文=井手 桂司、写真=狐塚 勇介>

 

松田紀子(まつだ・のりこ)さん1973年長崎生まれ。リクルート九州支社、メディアファクトリーを経て、KADOKAWAで「コミックエッセイ編集グループ」の編集長を務める。2016年には料理雑誌『レタスクラブ』の編集長も兼任し、異例の4号完売を達成した。19年9月にKADOKAWAを退社後、ファンベースカンパニーに合流。現在は編集力を活かした“ファンベースディレクター”として様々なクライアントの企画に伴走。

 

威圧感を消す「ゆるふわ戦術」とは?

松田さん:
役職につく人が自覚すべきなのは、だんだんと周囲に対して、自分が「威圧感」を感じさせる存在になっているということ。本人にそのつもりはなくても、実績や肩書きがつくと、相手が勝手に圧を感じてしまう…

私なんかも、目が吊り上ってますし、肩幅もジャッキー・チェンと5cmしか変わらないので、黙って社内を歩いていると、威圧的なオーラがでているとよく言われました…。私自身は、そんなつもりは全くないのですが(笑)。

そこで、ここ数年、私が心がけているのは「圧消し」の努力です!

松田さん:
まずは着る服を、できるだけゆるい素材で、明るい印象のフェミニンな雰囲気にしました。以前は、ジャージやエキセントリックな柄の古着で出社していた私ですから、完全に女装の域です(笑)。

でも、女装をするくらいのほうが、周りが安心してくれることがわかり、ここ数年はコスプレ気分でワンピースやスカートを着用することにしています。

また「見た目の維持」も結構大事で、メンバーからも取引先からも、疲れ切った見た目よりイキイキとした人のほうが魅力的に映るはずです。

肌と体型のメンテとしては、ヨガやジムに。髪のケアも大切なので、空き時間があれば、サロンに行くようにしたり。もちろん、全部を頑張りすぎると時間が足りないので、手を抜くところは抜いてます(笑)。

このような周囲に威圧感を撒き散らさないための「ゆるふわ戦術」を意識的に行うことが、年齢とともにリーダーには求められるのではないでしょうか。

 

どんな意見も、まずは面白がって受け入れる!

松田さん:
「ゆるふわ戦術」が功を奏したこともあり、私が所属していた『レタスクラブ』の編集部メンバーから、様々な意見やアイデアが生まれるようになってきました。

そもそも、雑誌編集というのは、編集部というチームで知恵と能力を出し合って一冊の本を作りあげる団体競技。チームに属する一人ひとりが力を出しきれないと、勝てる試合も負けてしまいます。

そのため、編集長として就任した時から、全員が気軽にアイデアを出せる雰囲気づくりを重視していました。

その工夫のひとつが、「担当外の分野についてもアイデアを出す」です。

松田さん:
以前は、なんとなく「他人の領域は侵さない」という暗黙のルールが敷かれていたのですが、「むしろ、どんどん侵していい!」と推奨しました。

なぜなら、どんなベテラン編集者でも、自分の担当外の分野については素人同然。素人目線から湧き上がる素朴な疑問が、読者の感覚にとても近いと思ったからです。

そして、大切なのは、どんな発言が飛び出しても、責めない、怒らない。バカにしないこと。「そんなこと考えるんだ〜!」と面白がって、受け入れることです。すると、誰もが「この場では、何を言っても大丈夫」と安心して、疑問や思いつきを率直に口にするようになりました。

 

自分の機嫌くらい自分で取って来い!

松田さん:
とはいえ、リーダーやマネージャーも人間ですから、時にはストレスが溜まったり、不機嫌になってしまうこともありますよね…? 

でも、社会人としての「礼儀」として、仕事相手の前では機嫌よく振る舞うことが、何より大事だと私は思います。

松田さん:
なんだかエラそうに言ってますが、私はこの件で社会人1年目にこっぴどく叱られた経験があります。

当時、お世話になっていたお客様に打ち合わせに行った日のこと。未熟な私は、直前に嫌なことがあったため、不機嫌さ丸出しで訪問してしまいました。すると、いつも優しいお客様が激怒し、こう仰られたのです。

「そんな仏頂面でくるな!自分の機嫌くらい自分で取って来い!」

これは、不機嫌を他人にぶつけることに無自覚な私の甘えでした。この経験から、人からどういう風に自分は見られているかを意識する大切さを学びました。

仕事は、人と人との関係で成り立つもの。たとえ結果を出していたとしても、威圧感を出していたり、不機嫌そうにしていたら、誰もついてきてくれません

「この人と一緒に仕事をしたら、何か楽しいことが起きそうだ」と思わせるポジティブなオーラをまとう工夫を、是非、普段の生活に取り入れてみてください!

 

松田さんの考え方が「全部乗せ」されている一冊!

松田さんの著書『悩んでも10秒 考えすぎず、まず動く! 突破型編集者の仕事術』では、悩めるリーダーとっておきの仕事術が紹介されています。

この本では、松田さんが実践してきた編集術のノウハウをたっぷりと紹介しつつ、管理職として大事にしてきたメンバー育成や、失敗の乗り越え方、楽しく働くためのコツ、一児の母として子育てとどう向き合ってきたかなど、松田さんの仕事や人生に対する考え方が全部乗せされている一冊に仕上がっています。

九州から上京してきた松田さんの紆余曲折あった編集人生の歩みも書き綴られていて、読んでいて勇気をもらえる内容になっています。

仕事をもっと楽しみたいという方は、是非、読んでみてください!

<文=井手 桂司、写真=狐塚 勇介>

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