2020年が終わろうとしています。
今年は、これまでの働き方を見直すことの多い一年だったのではないでしょうか。何か新しいことをやらねばと、焦る気持ちを抱いた人も少なくないと思います。
ですが、一人で突っ走っても、上手くいかないことばかり。なぜなら、何かを成し遂げるには、想いを共有し、一緒に進んでいける「仲間」が必要だからです。
これは企業においても同様で、激しい変化に見舞われる時代では、会社を応援してくれるファンの方々に支えてもらい、共に未来を築いていける企業こそが着実に前に進んでいくのではないでしょうか。このファンを大切にし、ファンを中心に、中長期的に売り上げや事業価値を高める考え方を「ファンベース」と呼び、提唱しているのが佐藤尚之さんです。
佐藤さんが2018年2月に出版した『ファンベース ── 支持され、愛され、長く売れ続けるために』は多くの人に読まれ、ファンベースへの関心が高まってきていることを肌で感じると、佐藤さんは言います。そして、2020年10月に『ファンベースなひとたち ファンと共に歩んだ企業10の成功ストーリー』が新しく出版されました。この出版を記念し、朝渋では、佐藤さんをゲストに招き、ファンベースへの関心が高まる背景や、ファンベースにおいて大切な心の姿勢などの話を伺いました。
【佐藤 尚之(さとう・なおゆき)さん】ファンベースカンパニー創業者、取締役会長 1961年東京生まれ。電通入社後、コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て。コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し、ツナグ設立。2019年、ファンベースカンパニー設立。
著書に『明日の広告』『明日のコミュニケーション』『明日のプランニング』など。最新刊は『ファンベース』(ちくま新書)。大阪芸術大学客員教授。復興庁復興推進参与。助けあいジャパン代表。花火師。
今、働く意義を見直す人が増えている。
ーー 約3年前に『ファンベース』が出版されてから、ファンと向き合おうとする姿勢を持つ企業が増えているように感じます。佐藤さんご自身は、どのように感じていますか?
佐藤さん:
ファンベースへの関心が高まっていることは肌で感じますね。本を出版する前は、「ファンと向き合いましょう」と伝えても、首を傾げられることが多かった。それが、今では様々な業界の企業から、ファンベースの考えでやっていきたいと相談されるようになりました。
その要因のひとつは、これまでのやり方では成長が望めないことを、多くの人が実感しているからだと思います。
これから国内の人口は急激に減っていき、内需の拡大は見込めない。そして、新型コロナウイルスの感染拡大のような予期せぬ変化も次から次へと訪れる。こういう先が見えない時代において、目の前にいるファンを大切にしたいと考える企業が増えてきています。
また、「何のために働くか」という価値観が変化していることも要因として考えられます。
そもそも仕事って、お客さんに喜んでもらいたいという純粋な想いからはじまるものだと思います。昭和のはじめまでは、御用聞きとしてお店の人がお客さんの家に足を運んだりと、関係を大切にしていました。ですが、マスメディアが発達し、顔の見える関係から顔の見えない関係となり、効率的に売りさばくことを目的に仕事をする時代が続きました。
でも、物質的に豊かな社会になるなかで、改めて働く意義を見直す人が増えています。そして、仕事って目の前のお客さんを大切にすることだよねと、原点回帰というか、真っ当な状態に戻ってきているのではないかと思いますね。
テクニックではなく、心の姿勢を学んでほしい。
ーー 今回『ファンベースな人たち』を出版されました。この本では、ファンベースに取り組んでいる企業の人たちの物語をマンガ形式で紹介していますよね。どういう想いから、この本は作られたのでしょうか?
佐藤さん:
様々な企業からファンベースを取り組みたいと相談をもらうのですが、「どういう施策をすればいいのか」と事例の紹介を求められることが多いんです。ですが、ファンベースで一番大切なのは、テクニックやノウハウではなく、ファンにどれだけ誠実に向き合うかという心の姿勢です。
そこで、既にファンベースを実践している人たちが、どういう想いで、どのような未来を描きながら、ファンと向き合っているかを、ドラマ仕立てで共有したいと思いました。それぞれの物語に触れてもらうことで、汲み取っていただけるものがあるのではないかと。
だから、この本には具体的な施策についても書かれていますが、それらの事例を表面的にマネることだけは、やめてほしいと思います。実施してみても、おそらく自分たちの会社やブランドのファンには響かないと思うし、むしろマイナスになる可能性が高い。
なぜなら、ファンはそれぞれに違うからです。
十人十色というか、人間もそれぞれ魅力は違いますよね。まずは、自分たちのファンが、自分たちの何に価値や魅力を感じてくれているかを知ることからはじめるべきです。そして、ファンが何を望んでいるかを考えて、それを実行してみる。
そういったファンと丁寧に向き合ってきている人たちの物語がこの本には書かれています。それぞれ唯一無二の物語ではありますが、ファンベースを実践している人たちから得られる気づきは多いと思います。
わかったつもりに、なってはいけない!
ーー ファンベースの実践は、ファンが支持してくれている自分たちの価値を知ることからはじめるという話は、その通りですね。おそらく、ほとんどの企業では自分たちが支持されている理由をあまり知らないのではないでしょうか。
佐藤さん:
その通りです。また、知っているつもりになっていることも少なくないです。自分たちのファンは、こういう部分を好いてくれているはずだと。
だから、ファンの人たちと会って、話を聞くことからはじめるのが大切です。自分たちの良いところも悪いところも聞かせてほしいと誠実に向き合えば、ファンの人たちは正直に語ってくれます。
夫婦や恋人同士でも、同じですよね。長年付き合ってると、相手は自分のこういう部分を好きでいてくれるはずと勝手に思い込んでしまう。でも、大抵は間違っていて、すれ違いが生じてしまいます。だから、どこかできちんと機会をつくって、相手の話を聞くことが関係を深めるために大切なのだと思います。
ーー 確かに、長く過ごしているうちに、勝手な勘違いは発生しそうです。定期的に相手と対話をする機会をもつことは大切ですね。
佐藤さん:
まぁ、自分のどこが好きかを相手に聞くって、気恥ずかしいことでもあると思うので、実行を躊躇する気持ちがあることも理解できないわけではないんですよ(笑)。
でも、相手と向き合う対話の時間を持つことが、相手を大切にすることだと思うので、実践してほしいと思います。
一方的に思いを語ってもファンには響かない。
ーー また、『ファンベースな人たち』では、企業の中の人たちが、自分たちの思いをファンに語ることの大切についても書かれていましたね。
佐藤さん:
はい。ファンベースでは、ファンの定義を、たくさん買ってくれる人ではなく、企業やブランドが大切にしている価値を支持してくれる人としています。
「商品やサービスを通じて、どんな未来を作っていきたいのか?」
「ファンの人たちにとって、自分たちはどんな存在でありたいのか?」
このような企業が大切にしている価値に共感し、応援してくれる人たちをファンと呼んでいます。だから、そもそも自分たちが何を目指しているかを語っていく必要があるわけです。
でも、要注意してほしいのが、思いを一方的に押し付けないこと。
ラブレターで考えてみてください。相手のことを考えず、自分の思いだけが綴られているラブレターって、ちょっと気持ち悪いですよね(笑)。相手のことをしっかりと考えて、どういう文面や書き方だと、自分の気持ちが伝わるか。思いを語るにしても、自分本位ではなく、相手のことを考える姿勢が必要です。
まずは、ファンが自分たちに期待していることを知る。その上で、自分たちの思いや考えを語ってほしいと思います。そうすれば、その思いに共感してくれる人が現れ、応援してくれる仲間になってくれるはずです。
キレイゴトなくして何の人生か。
ーー 最後にひとつ。佐藤さんは、ファンベースを通じて、「ファンを大切にする働き方のほうが、みなさんの人生が幸せになる」という生き方を提唱されているように感じますが、いかがでしょうか?
佐藤さん:
その通りかもしれません。『ファンベース』の本の一番最後にも書きましたが、自分たちを支持してくれて、商品やサービスを愛用してくれているファンの笑顔を作ることほど、うれしくて、誇らしくて、やりがいのある仕事は他にないと、僕は考えています。
ファンベースの話をすると、キレイゴトのように捉えられることもあります。でも、何のために会社に入り、何のために仕事をし、何のために商品やサービスを売っているかを問い直してほしい。
キレイゴトなくして何の人生かと、僕は思います。
ファンベースについて考えだすと、「時間がかかる」「手間がかかる」「手離れが悪い」「効率が悪い」とネガティブな要素で語られがちです。
でも、時間がかかるのではなく、じっくりと時間をかけたい。手間がかかるのではなく、真摯に丁寧に手間をかけたい。効率が悪いのではなく、できるだけ長く労力をかけてつきあいたい。こういう風に、心の姿勢を変えみてほしいです。
ファンベースな人たちが増えることで、幸せな人生を過ごす人がひとりでも増えたら、嬉しく思います。
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