天才、秀才、凡人。
わかったつもりになっている、これらの言葉について、「自分がどれに当てはまるか?」「どんな側面が強いのか?」を考えたことがありますか?
もしかしたら、天才や秀才を殺す凡人になってしまっているかもしれません。
前作の「転職の思考法」が大ヒットを飛ばしている北野唯我さん。今回は、発売わずか2週間で4万部を突破している新刊「天才を殺す凡人」をもとに、天才が殺されてしまうメカニズムについてお聞きしました。
ファシリテーターは朝渋代表・5時こーじ(@kojijico)が務めます。
【著者紹介】
Photo by Rie(@rie_cco_desu)
北野唯我さん(きたの・ゆいが) @yuigak
ワンキャリア最高戦略責任者、レントヘッド代表取締役など、ベンチャー企業の役員を兼任。
2018年6月にデビュー作「転職の思考法」を発売、2ヶ月で10万部を超える大ヒットを記録。このたび発売した新刊「天才を殺す凡人」も発売13日で4万部に。
書籍の執筆に加え、経産省や厚労省を巻き込み、これからの働き方や人事制度について提案をしている。
人の才能は3種類に分けられる
・「天才」=創造性を持っている人
・「秀才」=再現性を持っている人
・「凡人」=共感性を持っている人
北野さん:人の才能は、この3種類に分けられます。
忘れないでほしいのは、どれか1つだけに当てはまるというものではなく、誰しもがこの3つの要素を併せ持っているということです。
成果を出す前の段階の「天才」は認知されません。ゆえに、「秀才」が「天才」として一般的に認知されています。その一方で「秀才」は「天才」に対して嫉妬と憧れを抱く。
片や、孤独の中を突き進んできた「天才」は、小さい頃からいじめられていたり理解されなかったりしたために、「凡人」には理解されたいと願っている。そんな構造になっています。
5時こーじ:このように構造的に理解しようという試みは、これまで経験がない人も多いはずです。
これをもとに、人間関係を再定義する方もいるでしょうね。
北野さん:重要なのは、誰がどれに当てはまるかという話ではなく、自分の中にもこういう感情が生まれることがある、と理解すること。
あるコミュニティーにおいては、自分は「天才」を救いたいと思う側である。けれど、また別のコミュニティーでは、殺す立場になることもあり得ますよね。
そういった面を理解することが大切だと思います。
5時こーじ:「凡人」である自分の中に、「天才」や「秀才」が現われる瞬間というものに、はたして気付く人がいるのでしょうか?
北野さん:気付かないでしょうね。殺しちゃっていると思います。
自分自身の中にも、「天才」を殺す「凡人」が存在するんです。
例えば、会議の席でとても面白いアイデアを思いついたのに、色々と考え込んでしまって結局言わなかった経験がありませんか?
自分の頭の中に生まれた「天才」を、ロジックでもって「秀才」がチェックした。最後に、「凡人」が”言わなくてよかった、恥をかかなくて済んだ”と判断した流れです。
自分の中にも確かに「天才」はいるんだけれど、アウトプットすることがないから、創造性を持っている自分に気付けないんですよね。
自分の中の「天才」を殺してしまわないために
5時こーじ:「天才を殺す凡人」を読んでいると、どの自分が本当の自分なのかが分からなくなってしまうんです。こういったパニックは、どう解釈すればいいでしょう?
北野さん:2つあります。1つは境界線を引き直すこと。
自分や他人に対する”先入観”を相対化するということですね。自分は「凡人」だと思っていたけれども、「天才」の部分もあるかもしれない、と気付いてあげる。
それがまさに、この本の読書体験の中で感じてほしいことなんです。
もう1つは、「作り手に回ること=人に優しくなること」だと知ること。
今は、生産する人と消費する人の間に明確な差が生まれる時代です。
たとえば、米津玄師さんは今でこそ圧倒的なアーティストですが、10代の頃から膨大な量の動画・音楽を生産しています。10~15年継続したことによって周りとの差がついている。その部分だけを見て人は彼を「天才」だと認識しているんです。
彼が発表した初期の楽曲は、実際のバンドでは演奏できないようなあり得ないコード進行のものも多かったという話ですから、クラシックの先生に習っていたらきっと「才能を」殺されていたでしょうね。
それはすなわち、「天才」という存在が、ルールや前例に重きを置く「秀才」に殺されてしまうという構造なんです。
この本の良さは、自分の中にも「天才」がいると気付くことで、生産する人に対して優しくなれるということ。裏にある圧倒的な努力に気づける、それが本質的な魅力になっています。
努力を継続するためのマインドとは
5時こーじ:周りの人に批判されながらも、努力を継続していくためには、どのようにマインドを保っていけばいいでしょうか?
北野さん:クリエイターにとって重要なのは、代表作ではなく、佳作です。
美術館に行くと、消費する人は代表作しか見ないんですよね。生産する人は、代表作の手前に山ほどある佳作を見ている。膨大なトライアンドエラーを繰り返すことで、やっと花開くのが代表作であると知っているんです。
消費する人は、裏にある佳作に気付かずに、いきなり代表作を作ろうとしてしまう。
noteを書く時も、PVが数十~数百という状態が続くと、心が折れるかもしれません。ですが、これを路上ライブに例えたら、数百人の人が大切な時間を、あなたの1曲に捧げてくれたということになります。
その数百人さえ満足させられないのに、それ以上の人たちを満足させることが、果たしてできるでしょうか?
最初は、その数百人を満足させることだけを考えて継続していく。
そうすれば、必ず記事は読まれるようになるし、絶対に成果につながると思います。
言葉の原体験
5時こーじ:先日の中田敦彦さんのイベントで、「プレゼン資料は一切作るな」という話があったんです。書かれた文面を読んでしまうと、その瞬間に自分の言葉ではなくなってしまうから、という理由でした。
「小学生にも伝わるような言葉で」という部分に通じるものがあると思ったのですが、これに対する北野さんの原体験は何だったんですか?
北野さん:1つは、やたらと難しい言葉を使う人に対して、「よく分からないなあ」とシンプルに思っていたんですよね、普段から。
「自分は賢い」と勘違いした人が、自らの言葉ではなく組織の言葉を使ってしまうと、途端に悲劇を生んでしまいます。難しいカタカナ語を多用するのではなく、自分の身の丈に合った言葉を使うことが大切ではないでしょうか。
もう1つは、自分のオリジナリティーやポジションを築きたいのであれば、”自分の言葉”を使い続けること。自分にしか書けないものを書き続けることが重要です。
周囲の反応はどうあれ、継続することによって、その言葉は必ず誰かに届きます。
多くの人が世の中の”受け”を狙って、自分の言葉を見失っているように思います。自分には何が書けるのか、自分にしか書けないことは何だと追求し続けたことが、原体験に相当するかもしれません。
”自分の言葉”を増やすには?
5時こーじ:いざ自分の言葉で書こうとすると出てこなかったり、他人の言葉を使っていたなあと思う時があるかと思います。
自分の言葉を増やすためにはどうすればいいでしょう?
北野さん:1つは、違和感を大切にするということです。
「みんなはこういうけれど、自分は何か違う気がするな」と思った時に、その違和感を殺さずにラベリングすること(何かの言葉に当てはめること)を意識してみてください。
あとは、「描写するのではなく思想を表現する」言葉を、どれだけ作れるかが大事です。
たとえば「天才を殺す凡人」という書名についても、パッと見ただけで、いかに著者が憤りを感じているかが、一瞬でわかりますよね。
描写ではなく、思想を表現する言葉。
これをどれだけ自分の中から生み出せるか、ということです。
大切なのは、共感ではなく”理解”
5時こーじ:この本を読んだあとに、「じゃあ結局どうやって人間関係を構築すればいいのか?」1周回って分からなくなってしまった人も多いと思うのですが……。
そこから1歩踏み出す勇気、アウトプットのコツがあれば教えてください。
北野さん:共感ではなく、理解をすることです。
共感と理解は一見似ているようですが、本質的にはまったく違うものだということが認識できるかどうか。共感は感情であり、理解は知性によってできるものなので、努めて理解するということが大切だと思っています。
たとえば、自分は「秀才」タイプだなと思った時に、周りにいる「天才」や「凡人」に対して共感はできないかもしれない。けれど、理解することはできますよね。
その時に、何を理解するのか?
最も重要なのはwhy(何故?)を理解することです。
僕がリーダーとして大事にしているのは、必ず相手のWhyの部分を聞くように意識することです。
「なぜ、この会社を受けてくれたのか?」
「なぜ、この会社で働き続けてくれているのか?」
相手の人間性を認め、そして理解するためには、whyを訊くことが最も本質的だし、大切だと思っています。ぜひ、意識してみてください。
5時こーじ:身近な人と一緒にこの本を読んで、互いにWhyを質問し合うのも良いかもしれませんね。
北野さん、貴重なお話をありがとうございました!
自分の中にも、「天才」や「秀才」がいるかもしれない。
その存在に気付く前に、かけがえのないアイデアを殺しかねない自分の中の「凡人」を、どれだけ早く見つけられるかが大切なのかもしれません。
「凡人」が恥ずかしがる前に、会議で発言してみよう。
「秀才」がジャッジする前に、SNSに投稿してみよう。
自分の中の「天才」を、殺してしまわないうちに。
Text by 北村有(@yuu_uu_)
Photo by Rie(@rie_cco_desu)
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